一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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医療従事者

フランスで進行する医療の集中化

2009年9月1日

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松田 晋哉 氏 産業医科大学 医学部教授

 

世界にはいろいろな医療制度があって、イギリスのほかヨーロッパの多くの国では、主に国の予算による「国営医療サービス」(NHS)が行われています。これに対してフランスやドイツは、被保険者の納める保険料と政府の補助金でまかなう「社会保険制度」ですが、フランスはその中でも「償還方式」を、ドイツや日本、韓国は「第三者支払い方式」を採用しています。この二方式には、患者が医療費全額を医療機関に支払ってから医療保険者に償還請求をするか、患者が医療費の一部だけ支払い残りは医療機関が審査/支払い組織に請求するかの違いがあります。

日本では皆保険制度を導入しているため、どこにいても公平に医療サービスを受けられるという利点がありますが、それにより医療施設や技術が分散し、病床数もまちまちです。フランスでは保険者代表と国の出先機関が構成する地方病院庁が「地域医療計画」を立て、病床数や医療機器の配置を規制しています。また高度医療は、一定の症例数をこなしている医療機関にしか認められません。さらに循環器科をA病院へ、産科をB病院へなど移動を命令して病院の集中化を進めています。

例えば、パリ市内の190床の民間非営利病院の場合、診療報酬は自由価格が採用されているのに地域医療計画によって規制を受けます。MRIの使用が年間6,000件を超えたので、「2台目を買いたい」と申請しましたが、基準の9,000件に達していないため不許可になりました。PETは1台も入れられません。稼働率が低いと償却が難しく、機器の進歩にもついていけないからです。

また産科の分娩数にも規制があり、この地域では年間1,500例に達しないと閉鎖されます。ここで産科を持つには、24時間通しで産科医3人、麻酔科医、新生児科医各1人、それに経験豊富な助産師と看護師が必要なのです。また現在の心臓手術例数が基準の300に満たないので、閉鎖を命じられる恐れがあります。

このようにフランスでは、医療の集中化を進めて医療費抑制や医療の安全を図っているのです。フランスでは医療機器が日本に比べて素早く導入できるのは、ベッド数が1,200床とか2,000床とか医療機能が集約されていて臨床試験が効率的に行えることも関係しています。また医薬品/医療材料/医療機器/医療サービスの質や償還価格については、高等保健機構(HAS)が臨床資料や医療経済学的ガイドラインに沿って提言や答申を行い、保健省の医療製品経済委員会が価格を決めています。

日本に医療施設が多く、また高額な医療機器が多い理由は、公的な病院からスタートした欧米の医療システムと異なり、民間の診療所から発達したため規制をかけにくいからです。ですから医療制度の国際比較は、各国の歴史や文化、さらに人口学的、疫学的な観点からの分析が必要となり、こうした点を十分に留意することが必要です。またこうした医療制度の違いを無視して、例えば医療機器の価格だけを比較参照するのは、必ずしも妥当ではなく意味がないことだと言えるでしょう。

OECDの比較ではアメリカ、ドイツ、フランスの医療費はGDP比10~15%ですが、日本はイギリス以下の8%にとどまっています。日本が病院にもう少しお金をかけて望ましい医療制度を作るには、国民に理解できる形で医療情報を提示して議論を詰めることが大切です。

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