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PCI(冠動脈形成術)における近年の進歩―心臓から全身へ

2008年10月1日

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中村 正人 氏 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科准教授

 

虚血性心疾患の診断と治療は1960年代以降、非常に進歩してきました。どんな病気でも診断ができないと治療ができませんが、患者さんの負担が少ない低侵襲を大きなテーマとし、新しい診断法、次いで治療法が開発されてきました。歴史的な流れをみると、60年代に冠動脈造影が実施されるようになり、70年代にはこの改良型である左室同時造影が始まり、これらの診断法の発展を受けて80年代にはPCI(冠動脈形成術)、そして再灌流療法が確立し、90年代にニューデバイスが登場、そして現在の2000年代にはDES(薬剤溶出型ステント)時代となります。ほぼ10年サイクルで新方式が開発され、導入されてきたといえます。

虚血性心疾患の診断において冠動脈造影はスタンダードなものですが、低侵襲の面からみるとカテーテルの細径化、カテーテル挿入部の大腿部から手首部分への変更などの進歩があり、止血が容易になるほか安静時間が短くなるといったメリットがあります。また治療法としては1977年にバルーン拡張術が開発され、これまでのバイパス手術に代替するようになりました。

先進医療技術の導入で治療効果とQOLの大幅向上へ

しかしながら、こうした技術には限界もあります。血管造影は改良されたとはいえ、検査に1日を要するほか、マルチスライスCTと比較して侵襲の面で患者さんにマイナス面があり、現在では血管造影からCTに移行しつつあるといえるでしょう。また治療面では、バルーン拡張術は低侵襲でバイパス手術と比較しても格段の進歩がありましたが、課題として拡張困難な病変があることや再狭窄があり、バイパス手術が必要となってくるケースがありました。

これに対処する技術として登場したのが、BMS(ベアメタルステント)などのニューデバイスでした。BMSのほか、ダイヤモンドが先端に付いたドリルで狭窄部分を広げるローターブレーター、血管内の詰まった部分を削り取って血流を確保するDCA(方向性冠動脈粥腫切除術)があり、バイパス手術にほとんど代替できるようになっています。

さらに近年ではDESが開発され、成果を上げています。動脈内に置かれたステントから2週間ないし3週間の間薬剤が溶出し、再狭窄を予防するもので、日本では現在2種類のDESが認可されています。これまでの使用実績からも、DESは様々な病変における有効性、複雑病変への適応、そして血管の狭窄と密接に関係する糖尿病への効果といったベネフィットが確認されており、実施例が拡大しています。

その一方でDESはBMSに比べ、ステント血栓症を起こすリスクなどが高いため、継続的に抗血小板薬を服用する必要性があります。そのため、患者さん個々の病状や事情に合わせた、適切な治療法の選択が必要となってくるのです。

急がれる糖尿病対策

日本における糖尿病は、60年代までは患者数が少なく、大きな問題とはなっていませんでしたが、80年代半ば以降に急速に増加し、2002年には740万人、さらに2010年には1,080万人になると予測されています。これは世界的な傾向ですが、日本の場合は食生活の欧米化や、自動車の普及などが背景にあるとみられ、今後、さらなる予防の啓発が求められています。

さらに虚血性心疾患の患者さんの40%から50%までが糖尿病で、患者さんが糖尿病を患っている場合には再狭窄が多く起こることが分かっています。循環器の医師も糖尿病の減少に取り組まなければならない時代にきているのです。

先進医療技術の認可の迅速化と薬物投与の活用を

血管狭窄は冠動脈だけに発生するのではないことから、全身を対象としたケアが重要です。罹患枝数別の生存率をみると、10年生存率は1個所が91.9%であるのに対して3個所では64.2%と著しく低下しています。このことからみても、全身のケアの必要性が理解できると思います。

冠動脈形成はステントの開発によって飛躍的に進み、また改良によって副作用も確実に減少してきています。一方でこれまで世界各国で使われている最新のステントが、日本では認可が遅れて使えないという事例がありましたが、今後認可のスピードが速まっていくように希望しています。さらにこうした最新のデバイスの導入と並行して、全身の動脈硬化への薬物治療も積極的に行うことが必要です。心臓から始まった動脈硬化対策ですが、健康マネジメントの視点を全身に広げていくことが重要でしょう。

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