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世界では沈静化に向かうが、増大する日本のHIV

2008年4月1日

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吉原 なみ子 氏 国立感染症研究所客員研究員(前国立感染研究所・エイズ研究センター室長)

 

エイズはHIV感染により免疫系が破壊されて感染症や悪性腫瘍を引き起こし、死に至る病気ですが、症状が現れるまでの無症候期間が6ヶ月から15年以上と長くこの間に他に感染させることが大きな問題です。南部アフリカ諸国で極度に深刻化し、ある国では妊娠可能な女性の半数は感染しているとみられるほどで、これらの地域では平均寿命も非常に短くなっています。アジアでも流行し90年には15万人だったのが2000年にはインド、中国などを中心に640万人となり、さらに2010年には最悪5,000万人に達するとの予測もあります。91年に抗ウイルス薬が開発され、その後、複数の抗ウイルス薬の投与により、死亡者数は大幅に減少しています。25歳のHIV感染者の平均余命が38.9年となったとの報告もあります。しかし、残念ながらエイズ患者を完全に治療する薬剤はなく、予防に有効なワクチンの開発の道も遠いのが現状です。

感染は先進国では減少に向かっていますが、日本では増加傾向が続き06年のHIV感染者とエイズ患者の新規報告数は1,358件と、過去最高となってしまいました。この内訳をみると82%が男性で、感染が主として男性に広がっているようにみえますが、女性があまり検査に来ないことの結果と思われ、実際には女性も多いのです。妊婦検診の結果、10万人当たり8.5人から22.6人(報告者によって異なる)が見つかり、また推定感染地域も87%が日本国内で、対策が急務となっています。

導入が遅れる最新の体外診断用医薬品(IVD)、早期の発見に壁

感染への対策としては予防と検査が極めて重要で、まず検査から説明します。HIV検査にはIgG型抗体を検出する検査薬が当初から使われていますが、これは感染から50日以上経過しないと検出できず、第1世代、または第2世代と呼ばれています。これに対してIgM型抗体を検出する試薬は第3世代と呼ばれ感染後32日から検出できます。これらが抗体を検出するのに対して、第4世代と呼ばれる抗原を検出する検査薬では感染後28日から検出でき、感染の拡大防止、早期治療には非常に有効ですが、残念ながらまだ日本では保険点数が第3世代と同じ点数です。また先進技術を導入した高感度、高精度の検査が早期診断と治療には重要で、高額な機器の導入も不可欠ですが、現在の医療制度では“原理が同じ場合は一律の保険点数”となっているため、最新の検査が使いにくくなっているのです。これらの改善が必要です。

HIV検査の充実によって感染防止と医療費削減を

私はインドシナに位置するカンボジアで、エイズ対策に取り組んできました。10年ほど前から急激に感染が拡大するようになりました。内戦による専門家の不足、医療施設整備の遅れ、衛生に対する啓発活動の不足など、不幸な要因が重なって極めて深刻な事態でした。しかし現地での活動の結果、人口1,600万人に対して無料の検査施設で年間20万人程度のHIV検査が実施されるようになり年々HIV抗体陽性率は減少してきました。一方、日本は8倍以上の人口がありながら検査数はわずか年8万人にとどまり、しかも陽性は増加しています。各地の保健所で無記名、無料の検査を実施していますが、利用率が低いのが実情です。若者の性行動を分析すると、啓発活動と検査の充実を進める必要があります。HIV陽性者の生涯医療費は5,760万円と試算されており、医療費削減からも先進的な検査体制の確立が求められているといえます。HIV検査を入院時や術前の一般検査に導入する(ルチン化)ことにより、感染者の早期発見や感染拡大防止が結果としての医療費削減に繋がることになります。このためにもマスコミの皆さんの協力が不可欠です。

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