スペシャルインタビュー エキスパートに訊く: 医療現場で考える医療機器メーカーの役割と今後の課題
2021年2月1日
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副島 京子 氏
杏林大学医学部付属病院
不整脈センター診療科長・教授
医療機器には、心臓カテーテルやペースメーカーなど、使用にあたり高度な技術を要するものも多く、そのような機器を実際に患者さんに使用するには、手技に習熟するためのトレーニングや、適切な治療法選択を行うための機器に関する豊富な知識が不可欠です。そのような場面で医療機器メーカーが現状果たしている役割や意義について、また、特にコロナ禍で対面接触が制限される状況においてメーカーに期待するサポートや解決するべき課題について、杏林大学医学部付属病院 不整脈センター診療科長・教授の
メーカーも医師とともに「ワンチーム」に 最善の治療をめざす思いは同じ |
――ふだん医療現場では、医療機器メーカーが果たす役割や意義についてどのようにお考えですか?
副島先生(以下副島):新しい医療機器の導入の際のトレーニングはもちろんですが、治療中の動作不良などトラブルが起きたときに、的確なアドバイスをその場でいただけると助かりますね。また、治療の選択肢が複数ある場合、専門知識を持ったプロとして意見をもらえるとありがたいです。
――コロナ禍で困ったことや、メーカーに対する期待の変化などはありましたか?
副島:医療現場では感染防止のため「立ち合い規制」が行われ、対面でのメーカーサポートも制限されましたので、人員不足の病院などでは支障が起きたケースもあったのではないでしょうか。
一方で、コロナ禍を経験したからこそ、今後のメーカーサポートの方向性が見えてきた部分もあります。というのも、「立ち合い規制」の結果、リモートでも細かくアドバイスをいただけるやり方や、効率的なサポート方法があることが分かってきたからです。従来、メーカーの方に1日病院に張り付いていただくこともあったと思いますが、その必要はないと考えます。何社ものメーカーの方が院内の廊下や車の中でずっとスタンバイするようなやり方は、担当の方々のモチベーションにも影響するでしょうし、人材をむだにしない、不必要な人件費をコストにオンしない、削減できるところは削減して持続可能な医療を実現するという観点からも反対です。私はつねづね、米国のような、メーカーの皆さんが医師と対等な立場で医療の中心まで踏み込み、「ワンチーム」で患者さんに関われる環境や意識の醸成、またメーカー側の人材育成を望んでいるのですが、今回改めてその思いを強くしました。
――「ワンチーム」という考え方について、もう少し具体的にお話しくださいますか?
副島:米国に比べて日本の場合、医師に対してどうしても遠慮しがちで、発言しにくいカルチャーがあるようですね。ですが、メーカーの皆さんは「患者さんにとって最善の治療を実現する」という、私たち医師と同じ目標を共有しているのですから、遠慮せず、対等な立場で発言できるようになってほしい。そのためには、少なくとも自社のデバイスやシステムを熟知し、私たちから頼られる存在になっていただきたいのです。自分が責任を果たすべき領域には誇りや喜びを持ち、患者さんのために最善を尽くしているという一体感を共有できる、これが私の考える「ワンチーム」です。自分の努力や知識が必ずアウトカムに結び付くのが医療であるという自覚、自負が大切だと思います。このことは、日頃から学生にも話しています。
――「ワンチーム」という考え方の一方で、メーカー間の競争もありますね
副島:ものごとが進歩するには、競争や切磋琢磨も必要になるでしょう。当院でも、例えば心臓のマッピングシステムを3種類採用しているのですが、難しい症例でも3社のシステムの違いを見極めることで、治療選択の幅を広げることができます。
自社の機器を知り尽くし、自社製品がその症例に不適と判断した場合、自社製品の懸念点と他社製品のメリットを冷静に説明してくれる方は、医療現場でも頼りがいのある「チームメンバー」と認識されています。そのような「一本筋の通った人材」が増えれば、無用な競争ではなく、切磋琢磨による技術向上に向かうのではないかと思います。
持続可能な医療の実現のため、規制改革、遠隔医療推進に大きな期待 |
――コロナ禍を経験して、今後の課題だと感じられた点は?
副島:遠隔医療の普及に向けた日本の動きが、欧米や中国などに比べて遅いと実感しました。遠隔医療は米国でも、以前はそれほど進んでいなかったのですが、コロナ禍で一気に普及が進みました。日本では、患者さん側の意識の問題もあるのですが、行政の対応も遅く、もどかしく思っています。
ご存じのように、団塊の世代が75歳以上になる2025年が目前です。より簡素で低コストな医療を確立しないかぎり、現在のレベルを維持した持続可能な医療は望めません。そのためにもデジタル医療の推進が不可欠です。デジタル庁の創設やオンライン診療の恒久化の方針が打ち出されましたが、日本の医療が世界から取り残され、立ち行かなくなることがないよう、政府には思い切った規制改革、デジタル改革の早急な推進を強く期待します。
杏林大学医学部付属病院
不整脈センター診療科長・教授
副島 京子 氏
1989年3月慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学病院内科を経て1998年より米国Harvard大学医学部Brigham and Women's Hospital循環器内科に留学。電気生理学fellowship修了後、2003年同医学部助教授。2004年9月より慶應義塾大学病院心臓病先進治療学講座講師、Miami大学循環器准教授、聖マリアンナ医科大学循環器科講師を経て2018年より現職。