新たな血糖測定技術への期待と課題
2016年1月1日
大村 詠一 氏 認定特定非営利活動法人日本IDDMネットワーク
私は21年前に1型糖尿病を発症し、ブドウ糖を細胞に取り込む働きを持つインスリンが分泌されなくなる体になりました。そのため、毎日の自己注射でインスリンを補充することで命をつないでいます。
この病気の大変なことは、発症前は身体が全自動で行ってくれていた血糖値(血液中のブドウ糖濃度)のコントロールを全て手動で行わなければならないことです。そのために必要になるのが、現在の血糖値を把握するSMBG(血糖自己測定)になります。これは基本的にはインスリン補充のタイミングで行いますから患者は1日平均4回程度しか行いませんので、測定していない時間帯の血糖変動を把握することは非常に困難を極めていました。
この課題を解決するために開発されたのがCGM(持続グルコース測定)です。CGMでは、針のついたセンサーを腕やお腹などの皮下に留置し、5分ごとに血糖値との相関が認められている皮下組織のグルコース濃度を測定することで、血糖変動をシミュレーションしています。これにより点ではなく線で血糖変動を把握することが可能となりましたが、課題はその値を後日、医療機関でなければ見ることができない点でした。
これらの課題を2015年4月に保険適用となった「パーソナルCGM」が解決できると注目されています。CGMで測定した血糖値をモニターでその場で確認できる「パーソナルCGM」は、インスリンポンプ(注入インスリン量をプログラミングできる小型機器)と一体化したSAP(Sensor Augmented Pump)と呼ばれるシステムで提供されています。そのため、医療機関が管理していた従来のCGMとは異なり、患者自身がモニターで値を確認しながら、インスリン量の変更はもちろん、食事や運動などの活動も管理できるようになりました。
海外の研究では、既にSAPを継続的に使用した患者で、より良好な血糖コントロールを保つことができることが分かっており、これまで努力しても体質や合併症などで治療がうまくいかなかった方、そして、厳格なコントロールを求められる妊婦などの助けとなるのではと、私も非常に期待しています。
将来的には合併症のリスクを低下させ、糖尿病治療にかかる医療費の削減にも繋がると推測されますが、現状は、SAPを導入するには従来の倍額以上、人によっては3倍に近い医療費がかかるため、なかなか導入に踏み切れない患者が多いのです。1型糖尿病は小児慢性特定疾患治療研究事業の対象疾患のため、成人するまでは医療費に公費負担があり、SAPが導入できますが、20歳の誕生日を迎えた途端に従来の治療に逆戻りという事態も予想されますので、現在行われている国による疫学調査の結果を受けて、私たちは医療費への公的支援を求めていきたいと考えています。