60%まで増えた乳房温存手術
2012年12月1日
- キーワード
中澤 幾子 氏 イデアフォー
イデアフォーは、乳がんを乳房温存療法で治療した患者たちによって1989年に設立された乳がんの患者会です。会長を置かず、10名前後の世話人による合議制で運営され、現在会員は全国で350名程になっています。
設立当初から実施している乳がん治療に関する病院・患者へのアンケート調査は、2010年版で6回目となりました。温存手術の実施率が5%に満たないところからのスタートでしたが、2003年に50%を超え、2010年の調査では60%に達したところで頭打ち状態になっています。「乳房をとにかく残す」温存手術ではなく、「より良い形で術後の乳房を残す」ことを重視し、変形が大きければあえて全摘して形成技術で乳房を作り、より良い形で再建する方法が選択されるケースが増えているからです。「命が大事か、おっぱいが大事か」と言われた暗黒の時代は、終わりを告げたようです。
世界中に多くの患者がいる乳がんの治療は日進月歩。かつては大きく切るのが当たり前だった腋のリンパ節も、リンパ液が最初に流れ着くリンパを特定できる「センチネルリンパ節生検」の登場で、郭清は縮小の方向へ進み、リンパ浮腫のリスクを抱える患者は激減しました。術後の薬物療法に関しても、他のがんに先駆けて様々な新薬が開発されています。
最初の分子標的薬ハーセプチンは、悪性度が高く再発したら共存が難しいと言われた種類の乳がんに効果がみられた上に、副作用が少ない画期的な薬でした。特定のたんぱくが発現するがん細胞にしか効果がないのですが、該当する患者は確かに、元気で長生きしている印象があります。
最近では、遺伝子プロファイリングによって乳がんは性質の異なるタイプに分けられ、より細かいタイプ別に治療方針も異なるようになってきたといわれます。しかし一方で、正確に判定できるのかという不安材料も増すことになります。
さらに費用のことも考えざるを得ません。いくら良い薬でも、年間1,000万円もするものを、いったい何人が使い続けられるのでしょうか? 先進医療と費用は、個人にとっても国家にとっても大きな問題です。とはいえ、多臓器転移の患者にとって新しい治療法は「希望」です。「1年生き延びれば、また新たな治療法が開発される」と信じているから、がんと共存していけるのです。