慢性疾患との付き合い方を身につける
2010年9月1日
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千脇 美穂子 氏 特定非営利活動法人 日本慢性疾患セルフマネジメント協会
高齢化の進展や生活習慣の変化により、慢性疾患をもつ人の数は年々増加しています。慢性疾患は長期的な経過をたどる病気で、急性疾患の人の医療のゴールが完治であるのに対し、慢性疾患の人の場合は不快な症状をできる限り抑えながら、病気とともに生きることを目指します。
そんな慢性疾患の人を支援する取り組みの一つに「慢性疾患セルフマネジメントプログラム(以下、CDSMP)」があります。
CDSMPは1980年代から米国スタンフォード大学医学部患者教育研究センターで開発が始められた患者教育プログラムです。慢性疾患の人が自分らしく病気と付き合い、自己管理の技術と自信をつけられるよう、進行役を患者がつとめながら、毎週1回2時間半、全6回(6週間)のワークショップで学べるようにデザインされています。ワークショップには定められたカリキュラムがあり、ピア(仲間)による共感を根本に同質のワークショップが展開できるという特性と、各国でのエビデンスの積み重ねなどにより、現在では世界22カ国・地域で展開しています。日本では2005年に当協会が設立、CDSMPが導入され、以来2010年7月までに96回のCDSMPワークショップを開催し915人の方々が参加しました。また東京大学大学院医学系研究科の健康社会学教室が実施したワークショップ参加者の前後比較調査においては、症状への認知的対処実行度や自身が感じる健康観などで有意な改善がみられました。
CDSMPには幅広い慢性疾患の人が参加できます。病気の種類は違っても、慢性の病気の人たちの悩みには共通性があり、解決に役立つ自己管理の技術を学びます。これまでの患者教育ではあまり取り上げられてこなかったコミュニケーションの技術や、新しい治療法に取り組む際の注意事項なども学びます。
ワークショップに参加したある1型糖尿病の患者さんは、学びをきっかけに自身に合った治療法を主治医といっしょに考えることができ、インスリンポンプの導入を決意、自身の血糖コントロール改善に役立てたということもありました。
診断や治療に用いられる医療機器の進歩は患者の選択肢を増やし、その結果QOL(生活の質)の向上に結びついています。しかし、どんなに優れた医療であっても、それが全ての患者に合った「正解」とは限りません。自分に一番合った選択を自分自身で見つけることができるよう、慢性の病気の人を支援するCDSMPをさらに広げていきたいと考えています。