一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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素早い搬送体制が不可欠な脳卒中

2010年1月1日

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山口 武典 氏 社団法人 日本脳卒中協会 理事長

欧米では、脳卒中のことを「ストローク(神の一撃)」と呼び、「人の力ではどうしようもない運命」とあきらめていました。それが、X線CTやMRIなどの診断技術の進歩、血栓溶解療法(t-PA療法)などの新しい治療法、あるいは脳卒中専門病棟(ストローク・ユニット)の登場によって「治せる」病気に変貌し、「治る」イメージの強い「ブレイン・アタック」と呼ばれることが多くなりました。しかし残念ながら日本では、これらの新技術の恩恵をいつでもどこでも受けられる状況にはありません。

脳卒中には、血管が詰まる脳梗塞、脳内の細い血管が破れて出血する脳出血、脳動脈瘤が破れて脳表面に出血するクモ膜下出血があります。これら脳卒中のうち約7割を占める脳梗塞には、これまで根本的な治療法がありませんでした。でも2005年10月から、脳梗塞急性期に効果的なt-PA点滴静注療法が保険診療で使えるようになり、このおかげで障害を残さずに済む患者さんが5割も増えました。

ただしこの治療は、発症3時間以内に開始しなければ効果が期待できないのです。病院に到着してから治療開始までの準備に1時間近くかかるので、発症後2時間以内には治療を実施できる医療機関に到達していなければなりません。それより時間のかかるところでは、IT技術による遠隔医療が必要です。

残念ながら、わが国でt-PA治療を実際に受けた方は、脳梗塞を発症した人の2%にすぎません。これは一般市民の知識不足と救急搬送や受け入れ体制に問題があり、多くの患者が発症2時間以内に適切な医療機関に到達していないためです。

t-PA治療を全国に普及させ、脳梗塞患者の生活の質を改善するには、①脳卒中の症状と発症時の対応に関する市民教育、②救急搬送体制の整備、③受け入れ病院への専門医の配置と各種の画像診断装置や監視装置などの医療機器の整備、④急性期から維持期までの切れ目のない診療体制(リハビリテーションを含む)の整備が必要です。

なお、t-PA向けの救急搬送・治療体制の整備は、脳出血やくも膜下出血の患者さんにとってもメリットがあります。ストローク・ユニットへ素早く搬送することにより、死亡率や後遺症が軽減されるからです。加えて、再生医療などの現在開発中の治療法を普及させる上でも、このシステムは不可欠です。

日本脳卒中協会は、脳卒中の予防と患者・家族の支援をめざして1997年3月に設立され、2005年3月に社団法人として認可されました。現在、46都道府県に48の支部を設置し、一般市民・患者とその家族・医療関係者への情報提供や調査研究活動などを行っています。

われわれは脳卒中診療における新技術を普及し、脳卒中対策を一層充実させるには、脳卒中対策の法制化、すなわち「脳卒中対策基本法」(仮称)の制定が必要と考え、既にその原案を提案して運動を展開しています。ぜひ皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。

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