がん医療における核医学治療(RI: Radioisotope内用療法)への期待
2017年10月1日
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大井 賢一 氏
認定特定非営利活動法人がんサポートコミュニティー 事務局長
核医学診療推進国民会議 副代表
がん患者とその家族の希望は、正確な診断法の確立と個々にとって効果的な治療法の開発である。治療能力と診断能力の両方を兼ね備えた核医学診療は、個別化医療に向けて推進する可能性を秘めている。
核医学治療(RI: Radioisotope内用療法)には、甲状腺癌に対するヨード131、骨転移に対する塩化ストロンチウム89、悪性リンパ腫に対するイットリウム90、骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌に対する塩化ラジウム223が国内でも保険適用となっている。
欧米では、外科手術不能な肝細胞癌や大腸癌肝転移の治療として、イットリウム90を吸着させた血管塞栓用ビーズ(microspheres)を経動脈的に注入し、がん組織への血流を遮断し、イットリウム90による放射線照射の相乗効果で腫瘍縮小あるいは消失を狙った放射線塞栓療法の報告がある。
血管塞栓用ビーズは、2009年1月に厚生労働省の「第10回医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」で、日本国内への早期導入が推奨される医療機器の1つとして挙げられた。日本において血管塞栓用ビーズを用いた肝動注塞栓法や肝動注化学塞栓法は保険適用されているものの、放射線塞栓療法は未だ保険適用に至っていない。
がん組織は、しばしば体表面から離れた深部に存在する。体外から深部にあるがん組織に放射線を照射する場合、がん組織に届く前に通過する正常組織への放射線照射は避けられない。正常組織を損傷することなくがん組織に大量の放射線照射を行おうとすれば、体外から放射線照射するより、がん組織近くか、その内部から放射線照射した方が効率的な場合がある。
2015年6月、核医学治療に関わる規制緩和と国内での普及のために「必要な対応を検討及び引き続き研究開発の推進を進めてまいりたい」との答弁書が閣議決定された。しかし、低侵襲で治療効果が高く、QOL (Quality of Life)を重視した治療の選択肢といえる放射線塞栓療法を含む核医学治療の日本での普及は、著しく立ち遅れている。
私たちは、米国ワシントンDCに本部を置く世界最大規模のがん患者支援非営利組織Cancer Support Communityの日本支部として、2001年5月以来、日本のがん患者とその家族に対し、専門家による心理社会的支援、教育や健康的なライフスタイルプログラムを提供している。
また、私たちはわが国においてより良いがん医療環境の実現をめざして、学術団体である一般社団法人日本核医学会、業界団体である公益社団法人日本アイソトープ協会、そして膵臓がん患者支援に取り組む特定非営利活動法人パンキャンジャパンとともに、核医学診療推進国民会議を2016年12月に設立した。
今後、私たちはこの国民会議でのアドボカシー活動の中で、核医学診療環境の改善と適正な核医学診療の推進を図るための取り組みをしていきたいと考えている。