術後早期経腸栄養(PEG・PEJ)によるERASが胃全摘術後患者のQOLを改善する
2016年6月1日
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青木 照明 氏 胃を切った人友の会(アルファクラブ)顧問 / 東京慈恵会医科大学 客員教授
日本における胃癌治療の現状と問題点
日本人にとって最大の死亡原因はがんであり、最近その罹患率は肺がんが急速に増加しているが、胃がんもいまだ右肩上がりで増加中である。しかし、罹患率と死亡率の急速な上昇を示す肺がんの死亡数に対し、胃がんの死亡数(2013年)は大幅な生存率の改善がみられる(2011~2013年)。胃がんの5年生存率は現在では、約60%台に達し、肺がん・すい臓がんなどより、“治りやすい”がんになりつつある。
しかし、他方、“がんが治る”という直近の成果にのみ気をとられ、胃喪失によって起こりうる中長期的“後遺症”がなおざりにされ、術後のADL(日常生活)のQOL(生活の質)を著しく阻害されている患者層が急速に増加している
胃の生理学研究進歩の詳細を詳述する余裕はないが、がん根治術としての胃全摘術➡胃喪失➡グレリン欠乏(食欲減退・摂食障害)➡成長ホルモン分泌低下(体代謝低下)➡老化促進(サルコペニア・栄養障害)の一連の胃切除術後障害が何らかの形で必発であることが、術前の患者への説明で希薄になり、患者側も“先ずはがん治療”に目を奪われ、我々の調査でも、術前・術直後に胃を失うことの意味することに関心を持つ患者は30%に満たず“どのような症状がおこるのか”知らないまま退院する患者も少なくない。しかも、DPC(包括支払い方式)という保険システムは早期退院を促し、術後の摂食トレーニング・リハビリテーションが最も必要な時期に患者は退院させられ、持っていきようのない毎日の食事の悩みを抱えて彷徨っているのが実情である。
ERAS (Enhanced Recovery After Surgery)
ERASの概念はヨーロッパを中心に広がってきた概念であるが、①手術侵襲反応 ②手術合併症予防 ③術後回復促進の3要素改善達成を目的とし、在院日数の最小化、早期社会復帰の実現、社会的には患者の安全性を損なうことなく、ひいては医療費の削減を達成するとしている。基本的には国の医療費削減へ向けた考え方と軌を一にはしていると言いたいが、他の部位の手術はいざ知らす、胃切除術に関しては、目的【③】は全く達成できてないどころか、対応不備に逆行している。
何をすべきか。簡潔に提案すると、胃全摘術施行時に“同時”に経腸栄養瘻(ADLを妨げないボタン式)を造設し、術直後から強化栄養療法により、食欲不振・物理的経口摂取障害を緩和、十分なカロリー補給の上、体力強化と摂食リハビリテーションを行うべきである。個人的経験であるが、十数年前この方法を用いて胃全摘手術をした数名の患者さんたちは追跡調査で体重減少もなく、早期に社会復帰し、すでに傘寿も過ぎて現役でいる方もおられる。同時造設腸瘻の保険適用制限を廃止して普及を図ることで、術後障害による医療費を節約できる。