一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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報道・医療関係者

日本のカテーテル市場 ~カテーテル業界の過去、現状、未来~

2013年8月1日

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橋本 悟 氏
株式会社テクロス 医学ジャーナリスト

 

1977年にスイス、チューリッヒにて世界で第1例目の冠動脈インターベンションがGruentzigにより施行されてから40年近くが経過した。この治療は1980年代に我が国に導入され、その後、短期間のうちに全国に普及し、2011年には1,200億円規模の市場へと成長した。導入当初は外資系企業がこの市場で競争を繰り広げていたものの、我が国の医療機器企業であるテルモが参入したのを皮切りに、日本人の患者や医師のニーズに見合った製品を開発することを目指して、多くの日本企業もこの市場に参入した。高齢化と食生活の欧米化などにより血管疾患患者は増加の一途をたどり、この市場はバブル経済の崩壊にも大きな影響は受けず拡大したが、リーマンショックが皮切りとなった欧米の景気停滞はヘルスケア業界も避けられなかった。この間、欧米では企業の再編が繰り返され、斬新なデバイスの開発に資源が集中され始めた。

医療機器を使い治療ができるのは医師のみである。どんな基礎研究や材料工学も臨床現場のニーズを満たさなければ使い物にならず、その開発・改良に医師の協力は不可欠であり、日本人の術者は繊細な技術を有することで定評がある。しかしながら、医師の要望は感覚的なものである。「ぐぐっと入っていくような」、「先端から伝わるざらざら感が…」、といった日本人の技術者でさえも理解することが難しく、ましてや、外資系企業の技術者に英語に訳してそのニュアンスを伝えることは非常に困難な要望である。この抽象的な感覚を理解するには技術者を現場に派遣し続け、医師の伝える感覚を開発の図面に落とせるまで理解する必要がある。日本企業の強みはこのような術者(医師)との関係である。

一方、保険償還価格が大幅に下落し、臨床開発、承認の過程に時間を要する日本は、以前ほど外資系企業にとって魅力的な市場ではなくなってきているとも言える。しかし、近年、国際共同治験が行われるようになり、その結果として、Zilver PTX薬剤溶出ステントは米国より本邦で先に認可された。今後もこの動きは加速し、外資系企業の医療機器が本邦において本国よりも先に認可されることも増えるであろう。故に、開発・改良に有益な意見を提供するよりも、欧米の医師と対等にコミュニケーションが図れる語学力と国際感覚に長けた医師との協力関係が重要になるであろう。

そして、今後日本市場で成功するには、日本企業はより繊細な手技に必要とされるデバイスを、外資系企業は治療効果を変えるブレークスルーとなるデバイスを迅速に投入し続けることが必要であると考えられる。

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