イスラエルから学べること
2013年4月1日
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藤岡 竜志 氏
化学工業日報社 編集局 医薬品・医療機器グループ 記者
飲み込むだけで消化管内を観察できるカプセル内視鏡、不整脈のカテーテル・アプレーションを容易にするマッピング技術、開胸せずに心疾患を治療する経カテーテル大動脈弁置換術のデバイス。これらの先進医療技術は、イスラエルの医療機器ベンチャーが生み出したものだ。現在、世界で使われている新しい医療機器の1/3はイスラエル発という試算もある。
人口710万人、国土も日本の四国程度、天然資源もほとんどない小国で、なぜ医療機器をはじめとするハイテクベンチャーが次々と生まれ、イノベーションが起こるのか? その問いに一つの答えを与えてくれる本がある。『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか? 』(ダイヤモンド社、原題「START-UP NATION」)だ。
イスラエルは、国民一人あたりの「ベンチャー・キャピタル投資額」「スタートアップの数」「科学者・エンジニアの人数」で世界ダントツの1位。医療機器分野でも、ベンチャーの数は500社を超え、特許数でも世界トップを誇る。本書の題名にもあるようなIT企業だけでなく、グローバル医療機器メーカーは、自社のイノベーションを絶えさせないために、イスラエルに研究開発拠点を置いている。
本書は、イスラエルに起業文化が形成された理由を、国の歴史、人材、教育、産業政策など様々なアングルから多角的に解析しているが、最も興味深いのは、移民・徴兵制と起業家精神の関連性を指摘していることだ。ソ連崩壊前後の90年代に、有能なユダヤ人研究者・教育者・医師たちがソ連・東欧諸国から移民として流入、イスラエルの科学技術の発展に貢献した。専門分野の異なる人たちが一斉に集められる兵役期間中にビジネスパートナーを見つけるイスラエル人は多い。よく「イノベーションは異質なものを『つなぐ』ことから生まれる」と言われるが、イスラエルはまさに国家がそのコネクターの役割を果たしている。
ひるがえって日本はどうだろうか? 優れた技術シーズや生産技術を持ちながら、イノベーションを生み出せていない。本書を読めば、それらは必要条件であっても十分条件ではないことが理解できる。日本に医療イノベーションを起こすためには、イスラエルのように異質なものを受容し、結び付けていく仕組み作りが必要ではないだろうか?