革新的医療機器の創出に向けたPMDAの取り組み
2012年12月1日
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近藤 達也 氏
独立行政法人 医療品医療機器総合機構(PMDA) 理事長
レギュラトリーサイエンス
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、「審査」「安全対策」「健康被害救済」の3つの業務を行っています。これは、医薬品や医療機器などの開発から使用までの全般に関わるセイフティ・トライアングルという日本独自の素晴らしい仕組みです。この仕組みの下、より有効でより安全な医療機器等を待ち望む患者のために、PMDAは、その使命を対外的に伝えるとともに、職員が心を一つにして目標に向かって日々邁進する誓いとして理念を定め、日々その業務に取り組んでいます。
科学的な判断を基調として業務を推進するため、PMDAでは「レギュラトリーサイエンス」の推進に取り組んでいます。これは社会の調和のための学問であり、アカデミックサイエンスを実社会に適応させることで、社会に貢献する学問のことです。PMDAでは、学会・論文発表等による意見交換のほか、レギュラトリーサイエンス研究への取り組み、13大学との連携大学院協定の締結、厚生労働省の事業「革新的医薬品・医療機器・再生医療製品実用化促進事業」への協力等を通じ、レギュラトリーサイエンスの発展と人材育成に取り組んでいます。
革新的医療機器の創出・審査への対応
革新的な医薬品や医療機器のシーズを承認申請に結びつけられるよう、大学・研究機関、ベンチャー企業を対象に、開発初期段階から必要な試験等について相談を行う「薬事戦略相談」を昨年度から開始しました。利用者からは高い評価を得ています。今後、更なる利用を推進すべく、相談事業の周知や、ニーズに応じたサービスの提供等の強化を図りたいと考えております。
また、最先端の技術の実用化に貢献できる審査員を育成するためにはアカデミアとの連携も必要であること等から、本年度より医薬歯工などの外部専門家からなる科学委員会を創設しました。科学委員会では、先端科学技術応用製品への対応方針やガイドライン等の作成に関する提言等、科学的な面における審査業務の向上方策の議論・提言を行うとともに、医薬品、医療機器、再生医療等の分野ごとの専門部会を設置し、課題の検討を行います。
さらに、医療機器等の審査の科学的な考え方を明確化することで、製品開発の促進や審査基準等の国際連携の推進、審査迅速化につなげようと、PMDAでは、横断的基準作成プロジェクトを始めました。これは、審査情報やレギュラトリーサイエンス研究成果を体系化し、基準・ガイドライン等を作成するためにPMDA内の関係部署が横断的に活動するプロジェクトです。横断的基準作成プロジェクトの一つとして、コンパニオン診断薬に関わる問題点を整理し、必要なガイドライン等の作成を行うべく、コンパニオン診断薬プロジェクトを開始しています。平成24年に策定された医療イノベーション5か年戦略において、個々人に適した、有効かつ副作用の少ない医療(個別化医療)の重要性が指摘されており、今後この成果が医療イノベーションにも寄与することを期待しております。
これらのPMDAの取り組みが医療機器産業の活性化にも繋がることを期待し、それによって産業界だけでなく、国民の健康・安全の向上に貢献したいと考えております。
薬事・医療倫理について
PMDAの業務における判断の基盤にあるものは薬事であり、薬事の目的と手段を正しく理解する基本中の基本が薬事法の第一条「この法律は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質、有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに、指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか、医療上特にその必要性が高い医薬品及び医療機器の研究開発の促進のために必要な措置を講ずる事により、保健衛生の向上を図ることを目的とする」ことだと考えています。
薬事は「品質」「有効性」「安全性」という3つの保障が基本になりますが、医療現場で提供されている医療行為も、実は薬事で言う「品質」「有効性」「安全性」という3つの要素とすべからく重なっていると、臨床医の経験から考えております。医療の世界では医師は、ヒポクラテスの誓いにあるように医療の倫理に従って、ひとりひとりの患者さんにとって最善の医療を提供する努力をしています。すなわち、日々の進んだ医療を積極的に提供するとともに、一方その患者さんにとって不利になると思われるような治療は決して行わず、また、予期できないことが起こった場合には、当然のことながら最善の対応をとることが求められるということです。薬事の世界でも同じように、医薬品・医療機器等が不特定多数の人々の治療に役立つ効果のあるものを認可し、不具合が生じた場合には早急に適切な対応をとることが求められます。医療の世界での医療倫理は医師と患者との関係で1対1の信頼関係を築くことですが、薬事の世界での倫理的な関係は日本中、そして世界中の医療人と患者との相互に複数かつ巨大な信頼関係の中に置かれます。このようにスケールの大きな信頼関係がある薬事こそ究極の医療倫理と思っています。
医療上必要な医療機器を患者へ迅速に提供すること、これは産官学に課せられた大きな使命です。そのためには、それぞれの連携が不可欠ですので、今後とも変わらぬ温かいご支援、ご協力を賜りますよう何とぞよろしくお願い申し上げます。