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報道・医療関係者

日本経済と医療政策~いかに医療費の財源を確保するか

2011年12月1日

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遠藤 久夫 氏
学習院大学 経済学部 教授

世界一の高齢化、長期にわたる経済成長の低迷、先進国最大の公的債務の対GDP比。このような厳しい条件の下で、世界に冠たる国民皆保険制度を堅持していくには財源負担の議論は避けられない。

日本の対GDP比は先進国では最低水準

日本は65歳以上の人口が年に3~4%ずつ増えて高齢化率が世界一なのに、GDPに占める日本の医療費は8.1%で、先進国では最低の水準にあります。1980年と比較してもわずか1.6ポイントしか伸びておらず、ここ20数年間の医療費の対GDP比の伸び率も他の先進国より低いのです。

なぜ医療費の対GDP比は伸び悩んでいるのでしょうか。それは医療費の伸び率が経済成長率と大きくかい離しないように当局がコントロールしてきたからです。

高度経済成長期は医療提供体制が未整備だったので、国は医療費を積極的に使いました。80年代から安定成長期に入り、やがてバブルが弾けて低成長期を迎え、日本は“失われた10年、20年”を経験します。

この間、国は経済成長率の鈍化に応じて医療費の増加率も抑制しました。国際的にも低い日本の医療費をさらに引き下げるには、医療関係者が納得するような理由を見つけなければなりません。このとき使われたのは「日本の医療の現状は外国と少し違っている。国際標準に近づけるのが望ましい」という論理でした。

当時日本の医療費に占める薬剤費の割合が3割と高かったので、R幅*を引き下げることにより既収載品の薬価を大きく引き下げました。もうこれ以上の薬価引き下げは難しいので、ジェネリックの使用の促進に方針転換し、12年までに数量ベースで30%まで増やす方針です。

また、未分化であった病院の機能を整備しました。当時は一般病床に長期入院の患者が大勢いたので、急性期の病床と入院患者のコストが低い、今でいう療養病床とに分けました。また最近は、療養病床の一部を介護施設に転換しようとしています。

さらに海外と大差のある急性期病院の平均在院日数を短くして、医療費を減らそうと考え、在院日数が長くなると病院の収入が減るように診療報酬を改正しました。その結果、2000年に24.8日だった在院日数が、09年には18.5日に短縮しました。しかしこれでも国際標準より長いのが現状です。

医療費の財源をどこに求めるか

医療保険でも患者の自己負担を引き上げ、かつて1日300円だった老人の自己負担額(入院費)は09年には1割負担に、サラリーマンの自己負担分は1割から3割に引き上げました。最近の最も有効な医療費コントロール法は、診療報酬の改定率の引き下げです。2000年以降の診療報酬の改定率はマイナス改定を含み、低い水準で推移しています。診療報酬の改定がない年の医療費は対前年比で約3%増加し、経済成長率を大きく上回るので、改定率を低く設定してこのギャップを埋めようとしてきました。

不況下で低所得者が増加してきているので、自己負担率をむやみに引き上げるのは難しいでしょう。診療報酬の改定率もあまり低く設定すると医療の質への影響が心配されます。では、公費(税+赤字国債)や保険料に財源を求めるのはどうでしょうか。消費税の10%引き上げが議論されていますが、巨額の公的債務を抱えているので、増税分が実質的に医療費にどのくらい回せるのでしょうか。保険料率も引上げられてきましたが、現役世代への負担や雇用への影響は無視できないでしょう。

更なる高齢化の進展と技術進歩に伴い、国民医療費は確実に増えてきます。この負担をどうするのか、国民的な合意形成を行う必要があります。これまでは、それを怠り、赤字国債に逃げてきたのだといえます。

「費用対効果」の重要性

経済成長や人口動態という制約条件から、今後はさらに厳しい形で医療費の増加抑制策がとられるはずです。患者に対する医療へのアクセスを制限することは政治的には難しいでしょうから、診療報酬や薬価、医療機器の保険償還価格など「医療の価格」を抑制する方向に進むと考えておいたほうがいい。具体的なことはまだ決まっていませんが、ここで重要になるのは「費用対効果」の考え方です。効果や革新性が高いモノには高い価格を設定し、そうでないモノの価格は引き下げる。あるいは革新性はそれほどではないが、費用が安いモノの普及を促進するといったコンセプトが重要になってくると考えます。

(AMDD第3回総会(2011年9月)の特別講演「日本経済と医療政策」の要旨です。)

*薬価の改定は、医療機関が購入する価格の加重平均値に、改定前薬価の一定割合を上乗せする方式で実施されている。この上乗せ分の割合のことを、R幅(reasonable zoneの略)と呼ぶ。

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