一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

AMDD logo

一般社団法人
米国医療機器・IVD工業会

報道・医療関係者

日本の医療制度に望む―イノベーションに真の評価を

2011年4月1日

キーワード

ジョン-ルック ブテル 氏
米日経済協議会 議長

 

日本は鉄鋼や自動車、エレクトロニクスなど様々な産業部門で改善・改良を実現し、目を見張るようなイノベーションを達成してきました。しかし医療の分野に関しては、いまだにイノベーション力を発揮しきれておらず、これからも難しい状況が続くのではないかと懸念せざるを得ません。

中国に越されそうな医療面の開発力

ハーバード・ビジネス・スクールは2009年、「日本はこれまで複数の産業部門で素晴らしい発展に貢献してきたが、新しい産業技術の分野では次第にその力に衰えが目立ってきている」と指摘しています。さらに2011年、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は「先進国の中では日本はイノベーション力が最も弱い」という調査結果を発表しています。

PwCは先ごろ最新の調査「メディカル・テクノロジー・イノベーション・スコアカード」を実施し、各国のイノベーションに対する適応能力を総合的に分析しました。調査対象はブラジル、中国、フランス、ドイツ、インド、イスラエル、日本、イギリス、アメリカの9カ国で、国全体としてのイノベーション力をランキングしたのです。

それによると、医療分野でのイノベーション力ではアメリカが依然として世界トップを維持しており、また過去数十年にわたってイノベーションを一国で担ってきた経緯から、医療技術に関するイノベーションでは引き続き最高の能力を発揮するとされています。イノベーションの支援体制では、「調査対象の9カ国中で日本が最も弱い」という結果が出ました。対照的に中国は、過去5年間で医療分野のイノベーション力に最大の改善が見られました。今後も中国は他国を上回るペースで発展し、2020年までにはヨーロッパの先進国と肩を並べると予想されています。

医療費が増大し経済全体にも悪影響

日本のイノベーション力に対する低い評価結果には、イノベーションを実現するための環境的要因と、その分野の構造的要因がからんでいると見られます。例えば、業界の構造や商慣行などの仕組みが、ある種のイノベーションを妨げているのではないでしょうか。また臨床試験に伴う負担、薬事法の厳しすぎる規定、それに政府関係者の法的責任への懸念なども要因として挙げられます。

こうしたイノベーション力に関する問題に対して、もし何も手を打たなければ様々な悪影響がもたらされるに違いありません。医療分野のイノベーションに関しては、低コストの国々を巻き込んだ競争も予想されており、日本の競争力の低下は、増大する医療費負担への対応のほか日本経済全体に対しても悪影響を及ぼす可能性があります。

PwCが実施したイノベーション・スコアカードでは、過去数十年でアメリカを医療分野でのイノベーションのリーダーに押し上げた要件として次の5項目を挙げています。

  1. 新規技術を採用するときの償還価格などの金銭的インセンティブ
  2. 大学病院や医療研究機関でのイノベーションに対する財源の充実
  3. 医療産業を支援するような規制・制度の確立
  4. 患者が治療費などに敏感にならなくてもすむ環境
  5. ベンチャーキャピタルなど投資家によるイノベーションに対する協力的な資金提供の環境
イノベーションを支援する制度へ

私の経験では、日本でイノベーションを起こすには以下の要素が欠かせないと考えます。

  1. 規制・制度は、イノベーションを抑制するのではなく、支援していくものに変える
  2. 規制の目的として、a.製品や技術の安全性を高めること、b.患者の生活の質(QOL)を充実させること、c.費用対効果を高めること、を明確化する
    これらの目的にそぐわない規制は、技術や製品の認可や保険適用などの財源確保を遅らせて、助け得る患者に技術や製品を届けるのに長年月がかかってしまいます。また、承認審査を経たあとの製品の普及過程で、厚生労働省など当局の審査担当者に法的責任が及ぶ可能性を懸念するなどは、日本特有の状況で非常に非生産的です。
  3. 金融機関や個人が新しい技術や事業に投資しようとする環境や風土を整える
  4. より安い費用で臨床試験が実施できる環境を整え、また適応の拡大などを適切に認める
    たとえ海外の製品や技術が日本に導入されても、欧米に比べて適応が規制される場合が多いのです。
  5. 若い世代の医師たちにイノベーションを実現する自由が与えられるような医療環境を実現する
    イノベーションの大半は若い世代が担うことが多いのに、厳しい年功序列制度は自由な試みを妨げています。
医療は雇用創出にもつながる投資

医療制度の運営に当たって、政府は数々の課題に直面しています。医療の分野でのイノベーションを推進すること、そして医療分野の産業に投資が行われることは、経済の成長ばかりでなく、高度なスキルを必要とする雇用の創出にもつながります。医療を経費ではなく投資とみなすような環境を創り出すことが、結果として日本の競争力を高め、国民の健康を促進し、そして日本を豊かにするに違いないと確信しています。 

(原文は英文 文責編集部)

医療技術・IVDをめぐる声一覧に戻る
pagetop