技術と安全は医療の両輪
2011年4月1日
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小川 明 氏
共同通信 編集委員・論説委員
技術の進歩と安全の確保にどう向き合っていったらよいのか。技術革新が目覚ましい医療で、ますます宿命的な課題になる。肺がん治療薬イレッサ訴訟で製薬会社などに厳しい判決が続いて、その思いを強くした。
30年前の医療現場と比べると、医療機器の進歩に驚かされる。1975年に記者になってすぐ、登場直後のコンピューター断層撮影装置(CT)を取材に出かけて感心したことを思い出す。しかし、その後のCTやMRIなどの進歩と普及までは予想できなかった。技術は原理的なブレークスルーがあれば、どんどん革新が進む。体の中の動く臓器までくっきり立体的に捉えた最新装置の画像を見ると、遺体解剖が減ったのも納得がいく。
健康への志向が高い成熟社会では、人間の生への飽くなき欲望が成長の原動力となる。新しい医療機器が次々に出てきて、人々に恩恵をもたらした。日本では医療機器に占める輸入のシェアは高い。中でも日本市場の6割を占める米国医療機器・IVD工業会(AMDD)は広報が積極的で、存在感がある。
2月に開かれたAMDDメディアレクチャーでは、医療機器の保守管理について丁寧な解説があり、教えられることが多かった。人工呼吸器や除細動器、輸液ポンプなど生命維持装置の故障は患者の命に関わる。保守管理は、造影剤注入装置や超音波装置などではまだ不十分のようだ。医療機関ごとにばらつきがありすぎて、管理が行き届いていない実情も分かった。
医療事故には、機器の故障や操作のミスが絡むケースが珍しくない。2008年に始まり、今も続いている医療安全全国共同行動では、9つの行動目標の1つに「医療機器の安全な操作と管理」が挙げられている。この共同行動には日本臨床工学技士会も積極的に参加している。技術が進むほど、日々新たな安全策が求められる。現場の医師や看護師、放射線技師、臨床工学技士、メーカー、業界団体などが適切に協力し合わなければならない領域である。事故を防ぐには、患者も医療機器のリスクを知っておいた方がよい。
1999年に医療事故が相次いで明るみに出て、医療安全に関心が高まった。その後、医療事故への刑事捜査などで混乱も起きたが、そろそろ落ち着いて、患者のために医療安全の仕組みを現場や医療者の集団で構築していく時期にきている。大津波、震災で困難の時だ。被災地への医療を長く支援したい。