医療機器の革新は産業の知恵を束ねて
2010年9月1日
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荻野 和郎 氏
日本医療機器産業連合会 会長
日本医療機器産業連合会(医機連)/米国医療機器・IVD工業会(AMDD)/欧州ビジネス協会(EBC)医療機器委員会は去る4月26日、3団体共同で政府の新成長戦略「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」に関して提言書を提出しました。そこで日本の医療機器産業の束ね役である医機連の荻野和郎会長に日本の医療機器産業の課題と発展に向けてお話を伺いました。
医療機器の安定的な供給が使命
私ども日本医療機器産業連合会は20団体でつくる組織で、約4,900社が加盟しています。大型の画像診断装置から眼科や歯科などで使う材料や衛生用品まで幅が広く、おおよそ30万品目を供給しています。全ての商品が患者さんの命に直接かかわるものなので、安全性には特に気を配っています。
医療機器の市場は世界全体では伸びていますが、日本の市場は相対的に小さくなってきています。10年前は世界の15%を占めていましたが、最近は10%ほどです。特に輸入が輸出の2倍以上という輸入超過状態になっています。診断機器はまだ国際的に競争力を発揮していますが、特に最先端の治療機器はかなりの部分を輸入に頼っているのが現状です。
医療機器業界にとって最も重要な使命は、いついかなる時も供給が止まらないようにすることです。緊急事態に即応できないと手術や救急処置にも支障を来し、患者さんの命に関わります。国産品であろうが輸入品であろうが、日本の患者さんに最先端の医療機器を安定的に供給できる仕組みを維持しなければなりません。医療機器は幅が広く企業ごと国ごとに得意・不得意な分野がありますので、このグローバルな環境の中で日本の患者さんの最先端医療を支え続けられるよう、より良い医療機器を作り出していくための環境づくりも医機連の役割です。
欧州では企業に「CEマーク」
現在の日本では先端的な治療機器の多くを輸入に頼っていますが、日本が治療機器の開発に弱い要因として、治験にかかる負担の大きさも関係しています。治験のシステムがまだまだ充分に整っていないので、手間も時間も費用もかさみ、これでは新しい機器を開発して商品化しようという意欲も抑えられてしまいます。いくら良い製品を開発しようとしても採算が合わなければ広まりません。医療機器が医療機関に導入されるには、各国の審査をパスして認証される必要がありますが、日本では薬事法が厳しく、世界最先端の治療技術が日本に届くのに欧米よりも遅れ、恩恵に浴せない患者さんも多いのです。この「デバイスラグ」は海外の企業だけでなく、日本の企業の足かせともなっています。
その点、ヨーロッパでは品質管理システムについて認証機関から「CEマーク」を取得しておけば、その企業は自社の責任で製品の販売が可能です。人工心臓など特殊な機器は人間での治験を必要としますが、アメリカよりも少ない症例数ですみます。またドイツでは病院が新しい製品を試すことができ、良いものを早めに導入できる道が開かれています。このようなわけで先端医療機器はまずヨーロッパで使われ、次にアメリカやアジア諸国に広がり、やっと日本で承認されたときはもう古くなっているという例もあります。
企業が自由に動ける環境整備を
こういった欧州の例を見習って、日本でも医療機器産業の活性化のために企業が自由に動ける環境を作って欲しいと思います。いま大切なのは行政の仕組みを簡素化して、審査の効率化を高めることです。例えば、企業ごとにその企業が製品開発等において適切なチェックシステムが作れているかどうかを審査するようにすれば、1品目ごとの審査に手間をかける必要もありません。
抜本的な改革には薬事法の改正が必要ですが、最近は行政側にも意識の変化が見られるようになってきました。政府は6月に新成長戦略「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」を発表しましたが、4月には日米欧の医療機器産業3団体は「研究開発の活性化」と「承認迅速化」に向けた制度の見直し、それに「イノベーションの評価」の3点を実行計画に反映してもらえるように要望しました。
これまで医療機器の開発は主として医師の発案の基に行われていましたが、企業側が発案した機器についても臨床研究が許されることになれば、技術革新の可能性が開けるはずです。政府にはぜひ国民の目線に立って医療機器産業をリードしてほしいと考えています。そのためにもまずは現在日本で起こっている医療崩壊の問題を改善してもらいたいと思います。医療現場が乱れていては、産業側としても力が出せません。そして何よりも産業の活性化のために規制を撤廃、改善すること。個々の企業が得意分野を発揮し自由に動ける環境が整えば、おのずと産業は活性化していきます。