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報道・医療関係者

診療報酬改定にみる医療政策の方向性

2010年5月1日

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高木 安雄 氏
慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科教授

 

この4月、新政権により診療報酬が見直されて10年ぶりにプラス改定が行われました。そこで慶應義塾大学大学院教授の高木安雄先生(健康マネジメント研究科)に改定のポイントを解説していただきました。

意欲的な10年ぶりのプラス改定

平成22年4月から医療費は、薬価引き下げ分を含めてネットで0.19%引き上げられることになった。平成12年度の0.2%以来、10年ぶりのプラス改定であり、医療崩壊など医療供給の現状に対する新政権の改革意欲が伝わってくる。
平成22年度の医療費36兆5000億円をベースに医療費の改定幅を計算すると、全体では700億円(0.19%)となり、これに伴う国庫負担は160億円の増加となる。診療報酬本体では1.55%(5700億円)の引き上げ幅となっており、その内訳は医科1.74%(4800億円)、歯科2.09%(600億円)、調剤0.52% (300億円)で、特に医科では入院3.03%(4200億円)、外来0.31%(400億円)と急性期入院医療などに改定財源を集中投入した。
このように今回の診療報酬改定は、「選択と集中」による医療再生の取り組みが大きな特徴である。諮問書には「急性期入院医療におおむね4000億円程度を配分する。また、再診料や診療科間の配分の見直しを含め、従来以上に大幅な配分の見直しを行い、救急・産科・小児科・外科の充実等を図る」と明記され、自民党政権下の日本医師会の政治力を背景にした開業医/外来重視の医療費配分から入院医療と救急/ 産科等医療への重点配分が行われた。

信頼高めて皆保険を守る方向へ

昨年9月の民主党/社会民主党/国民新党による連立政権の政策合意の中で、医療については「後期高齢者医療制度は廃止し、医療制度に対する国民の信頼を高め、国民皆保険を守る。廃止に伴う国民健康保険の負担増は国が支援する。医療費(GDP比)の先進国(OECD)並みの確保を目指す」ことが決まっていた。日本の医療費(GDP比、2006年)は8.2%であり、アメリカの15.3%は極端としてもフランス11.1%、ドイツ10.6%並みのレベルには時間をかけても引き上げたい想いがあり、プラス改定は当然の帰結といえる。
しかし他方で、昨年11月の行政刷新会議の「事業仕分け」に象徴されるように公的補助金が投入される診療報酬改定には厳しい精査が行われ、「財源捻出分は病院勤務医対策に当てて、国民負担を増やさずに医療崩壊を食い止める」ことが医療政策の基本となっていた。すなわち、「限られた財源の中で病院・診療所それぞれプラスの診療報酬改定とすれば現状は変わらず、医師不足の解消にはつながらない」と、必要な病院/診療科/地域に重点配分して、医師不足の病院/診療科を選択するインセンティブとする診療報酬改定が行われた。

「がん難民」の解消なども重点

具体的な診療報酬改定の項目をみると、「手術の適正評価」として、主として病院で実施している難易度が高く人手を要する手術点数を30~50%引き上げており、約1800項目の手術点数の半数程度が増点となっている。わが国の診療報酬は長い間、「お医者さんとお薬」という内科系重視の評価体系が続いていたが、その見直しが今回の改定によって加速したといえる。
「質の高いがん診療の評価、連携の評価」では、丁寧な説明と退院時の治療連携計画を評価する点数が新設され、「がん患者カウンセリング料」500点、「がん治療連携計画策定料(計画策定病院)」750点(退院時)、「がん治療連携指導料(連携医療機関)」300点(情報提供時)となっている。がん診療連携拠点病院を軸とした「選択と集中」を補完するのが連携であり、「がん難民」の解消のための取り組みといってよい。「手術以外の医療技術の適正評価」についても、先進医療専門家会議や診療報酬調査専門組織医療技術評価分科会の検討を踏まえて、胎児心超音波検査などが保険導入されたほか、強度変調放射線治療(IMRT)の適用拡大がなされているが、画像診断/治療装置の更なる活用が望まれる。

問われる診療報酬の社会的機能

こうした技術評価/技術導入と裏腹にあるのが、実勢価格を踏まえた医療材料/検査の適正評価や治療効果が低くなった技術の適正評価であり、今回の改定でも末梢一般血液検査などの検体検査実施料のほか、眼科学的検査、聴力検査などが引き下げられた。
このように今回の診療報酬改定は、どこを削ってどこに配分するか、つまり従来の技術を超えるような価値ある医療技術を適正評価することで、医療政策に対する問題意識と解決の方向を明確に示しており、その効果が注目されよう。「俺の腕がいちばん」と職人気質の目立つ医療界にあって、診療報酬は医療の技術評価なのか、生活保障のための資源配分なのか、そのバランスと社会的機能が問われている。
平成24年度の改定に向けて、今回、重点課題として評価した事項の影響を検証するほか、チーム医療評価後の役割分担の状況、医療内容の変化等を調査・検証することになっている。また、DPCの調整係数の廃止・機能評価係数の導入の影響も検討課題となる。
しかし最大の関心事は、今回の改定の結果、医療費がどれくらい伸びるかであろう。2~3%の想定範囲内に落ち着くのか、4~5%の大盤振る舞いと出るのか。それ次第で24年度の医療と介護の同時改定は再度、政治課題となって来る。「医療崩壊」の下で診療報酬は今や政治を抜きにしては語れない。

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