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報道・医療関係者

身体にやさしい医療は患者の願い

2010年1月1日

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松井 宏夫 氏
医学ジャーナリスト、中央大学客員講師

 

The greater incision, the greater surgeon.̶これは欧米の格言で、「偉大な外科医ほど大きな切開の手術を行う」という意味です。視野を十分に得て確実な手術をするには、大きく切開する必要があったのです。“あった”と過去形にしたのは、時代は手術の常識を根底から覆してしまったからです。腹腔鏡の登場によって。

日本での腹腔鏡による消化器の手術は1990年5月、帝京大学溝口病院外科の山川達郎教授(当時)グループが胆のう摘出で実施しました。慶應義塾大学病院一般消化器外科の大上正裕助手(故人)は2か月遅れで続き、同助手はさらに1992年3月、世界初の腹腔鏡による胃がん手術に成功したのです。当時、大上助手を常に取材していた私に、彼はこんなことを口にしました。「胃がんの腹腔鏡手術を受けた患者さんが、同室の患者さんたちに遠慮されるのです」

腹腔鏡手術を受けた患者は痛みがない、翌日から食事もできる、動き回ることもできます。そして術後5日で退院。一方、開腹手術の患者は、約1週間食事はできない、入院期間は約3週間。身体にやさしい医療の素晴しいところです。

ただ、新術式が導入される変革期には、必ず旧手術と新手術の境界ができます。その前後の患者さんが同室になると、“遠慮”ということが起きます。逆に、境界前の患者は、「あの患者さんは私より後に手術をしたのに、もう食事をしているし、もうすぐ退院だというのですが、どうしてですか?」と大上助手に聞いたそうです。腹腔鏡手術自体では困ることはなかったが、その質問に答えるのが辛かった、と。

腹腔鏡手術誕生以降、「傷跡が小さく、傷跡が早く消える術式こそ、より腕の良い外科医」に変わってしまいました。もちろん、その身体にやさしい医療を支持しているのは患者たちなのです。今、それは「ダ・ヴィンチ」を使うロボット手術の時代。心臓手術をこの装置で行う金沢大学病院の渡邊剛教授は「患者さんを思うから身体にやさしい医療を行うのです」と。ところが、日本には3台しかありません。米国ではダ・ヴィンチの手術が一般的なので、「日本の医療が大きく遅れてしまうのでは」と心配になっています。

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