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報道・医療関係者

人口減少下の医療制度改革~制度と発想をどう変えるべきか

2010年1月1日

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大林 尚 氏
日本経済新聞社 編集委員兼論説委員

 

※AMDD第1回総会(2009年9月16日開催)で行われた特別講演の要旨をまとめました。
きょう9月16日は新しい民主党内閣が発足し、日本の政治史に刻まれる日となった。日本の政治がいま直面している長期的な政策課題の1つは「気候変動」であり、政府は野心的にも「二酸化炭素25%削減」の方針を打ち出した。日本の環境技術にも期待がかかるが、アメリカや中国、インドなどとグローバルな交渉を進める必要がある。

もう1つは、少子化/長寿化/高齢化という国内問題である。これが経済政策の手足をしばり、経済成長を損ない、財政や税制が制約を受ける恐れもある。年金/医療/介護の制度改革は避けられない。人口の22%を占める65歳以上のシルバー重視ばかりでなく、若い世代に対する政策も重要となろう。

団塊の世代や団塊ジュニア世代が“後期高齢者”になる25年後、50年後に人口の高齢化がピークに達し、子供が1割弱、お年寄りが4割を超え、現役で働く人は全人口の半分に減るはずだ。こういう人口構成では医療や年金が苦しくなるのは当然だ。日本は移民政策をとってはいないが、今から将来の方針を立てる必要がある。いま赤ちゃんが年間110万人ほど生まれているが、2030年には70万人、2050年には50万人を切るのが政府の人口推計の前提だ。

日本の合計特殊出生率は1.37までやや回復したが、アメリカは2.05、フランスは2.0まで伸びている。近代化をゆっくり熟成させてきた国は、いま出生率が回復中である。イタリアやドイツを含む第2次大戦敗戦国は出生率が低いが、いずれも短期間で近代化をなし遂げた国々である。

日本の人口は明治維新のあと急速に増え、2000年を過ぎたところでピークを迎えている。出生率1.3程度が続くと、増えてきたのと同じスピードで人口が減っていく(図1)。今のままで推移すると、いま6,000万人のイギリスと日本の人口は60年後に逆転するはずだ。イギリスは出生率が高い上に、移民政策をとっている。

アンケート調査などでは、若い人は子どもを2~3人ほしいと思っているのに、現実は出生率が1.3~1.4あたりをうろうろしている。このギャップを埋め、若い人の希望をかなえることが政府の仕事であろう。人口は国力であり、国にとって最も重要な構成要素なのだから、会社や経営者も何ができるかを真剣に考えてほしい。

医療にも効率化は不可欠

日本の医療費は、主に高齢化と技術革新のために増えている。年を取ると直面しがちな生活習慣病は毎日歩くなど自分の心がけしだいで、ある程度は防げるものだ。「運動もしない人の医療費を払わされるのは不公平」と言った政治家もいたが、この考え方が今の日本人に必要なのではないか。病院で亡くなる人の数は80%を超えている。英米の場合は半数強だ。特に米国ではナーシングホームなど施設で亡くなる人が多い。日本人が「畳の上で死にたい」と思うのは、病院で死ぬことの不本意さを表す言葉だと思う。これを改めるだけでも医療費はある程度、下げられるかもしれない。

病院で亡くなる人が多いのは、入院日数が長いことと関係がある(表1)。平均在院日数36日は日本が突出している。フランスは2週間、ドイツは10日、英米は1週間ほど。日本は医師の数が人口1,000人あたり2人で。入院日数が突出して長いから、1ベッドあたりの医師の数が極端に少なくなる。米国などは100ベッドあたり医師が76人もいる。非常に密度の高い医療ができるわけだ。

この背景には、日本では心身の機能の下がった患者が長く入院しているという現状がある。欧米では自宅療養のほか、ナーシングホームや介護施設にいる。ベッド数が多い日本では、ヘッドに誰かに寝ていてもらわないと採算が合わず、ベッドが患者という需要を作り出している面がある。米国などは手術が終わったら患者にすぐ退院してもらうという短期型医療を続けている。

日本の医療のもう1つのひずみは、勤務医の労働時間が長すぎることだ。外国では週ほぼ50時間だが、日本ではどの年齢層でも50~60時間で、20歳代などは80時間を超えている。収入を比較すると、世界で日本だけが開業医の収入が突出して高い。診療報酬の配分が問題視されてきたが、なかなか是正されない。利益団体としての日本医師会の存在もあるだろう。民主党政権の今後の施策を点検していく必要がある。

医療にも効率化や重点化が求められる。日本には「効率化」という言葉にナーバスに反応する医療関係者が多いが、使わなくてすむ経費は、必要なところに回せばよい。日本の医療の効率化には、3つのポイントがある(表2)。例えば、ジェネリックの使用量を17%から40%に高めれば、医療費を毎年3,000億円も圧縮できる。欧米の平均は40~50%だ。レセプトの電子化も、開業医には評判がよくないが、これは医療の標準化にもつながる。せっかくのIT技術を宝の持ち腐れにしてはならない。また医療へのフリーアクセスを一定のルールのもとに患者の利益を損なわない範囲で制限すれば、コストは下がるだろう。

「医療立国」を国の発展、経済成長の要素として国家戦略として位置づけることが重要である(表3)。無駄は徹底的に排除する。人材の育成も欠かせないが、間に合わなければ海外から人材を入れたらよい。もちろん患者も海外からきてもらえばよい。また税金や保険料がごちゃまぜに使われているので、再構築が必要となろう。厚生労働省だけではなく、経済産業省などの知恵も生かしつつ医療改革を推し進める。それが医療立国をめざす前提になるのではないか。

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