データリンケージとシェアリングによる医療分野の課題解決
2020年2月1日
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末松 誠 氏
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 理事長
データシェアリングの必要性
誰も経験したことのない超高齢化社会という未来を迎えるにあたって、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)はデータのリンケージとシェアリングが重要なミッションだと考えます。
年単位で調べた人口遷移調査データを見ると、人生5 0 年と言われていた1 8 6 0 年代、明治維新の頃の日本は、5人に1人が50歳以上、残りの4人は50歳以下という若い国でした。
しかし、1970年代から人口構成は大きく変貌していき、50歳以上の人口は今後2040年代まで上昇し続けます。その後、グラフは平坦になり、3人に2人が50歳以上になる21世紀型に落ち着きます。
2040年代までに我々に残された時間は、20~25年ほど。創薬や医療機器の開発にとって20~25年という時間は、わずか1~2サイクルではないでしょうか。迫りくる新たな時代に適応するためには、スピードアップしないと追いつけません。
そのためには患者単位のリアルワールドデータのシェアが必要不可欠になりますが、それには困難が伴います。法律でも制度でもなく、人間自身です。現場の医者と臨床検査技師、大学同士、アカデミアと産業界など、どこも異種格闘技状態で個々に展開し、足並みをそろえることは簡単ではありません。
AMEDの2つのソリューション
AMEDではこれらのソリューションとして、2つの試みにチャレンジしてきました。
ひとつはJapan Excellence of Diagnostic Imaging(JEDI)という画像データ集積の試みです。データを収集・統合化し、AIを活用した診断や治療支援を行うのです。
AIを活用するためには、質の高いデータを大量に収集する必要があります。2016年度から6つの学会で、アノテーション付きの病理画像を学術情報ネットワーク(SINET5 : Science Information NETwork)を利用して集積しています。
病理学会では、NII(国立情報学研究所)のAIエンジンを病理診断に活用し、確率の高い診断をアウトプットして、最終的に病理専門医が判断するシステムを作りました。これは福島県で始められ、成果が出ています。
もうひとつの試みは、未診断疾患イニシアチブ(IRUD : Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases) です。全国の希少疾患や未診断疾患患者の遺伝子を調べ、その結果をデータベースで検索し、診断を確定し、治療に向けた病態解明を目指しています。
現在、希少疾患は約7,000あるといわれており、そのうち遺伝子の異常と疾患が関連づいているのは3,000~3,500。しかし、希少疾患も、地球レベルで見ると希少ではなくなります。たとえば、日本では4例しか報告されていない非常に珍しいタイプの発育障害も、世界では30例ほど見つかっています。
このような未診断疾患患者は地元の病院で診断がつかず、地域の中核病院を訪れても依然診断がつかない、さらに大学病院を受診しても状況は変わらず、ナショナルセンターへ、といくつも病院を回されてまた最初の病院に戻るという、果てしのない旅を余儀なくされることが多いのです。これが1つのデータベースで検索できれば、たちどころに診断が可能になります。ヨーロッパにはOrphanetという希少疾患のデータベースがありますが、今後はグローバルデータシェアリングのシステム構築が欠かせません。データベース間の連携がますます重要になるでしょう。
世界のデータベースをどのようにリンケージさせ、シェアするかはとても重要なことです。それは相互の「信頼の醸成」によって成り立つので、まずは信頼関係を築くことからはじまるといえます。
日本には医療費に関する膨大なデータと介護に関するデータの基礎がありますが、そのリンケージが可能になれば、医療と介護のバランスや超高齢者の医療・介護のニーズを探索する重要な手がかりになるでしょう。そのためには取得したデータの2 次利用を可能にするインフォームドコンセントの改革が必要です。
我々に残された時間は20年しかなく、今後はスピード感が必至になるでしょう。