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報道・医療関係者

2040年に向けての社会保障・医療について

2019年8月1日

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迫井 正深 氏
厚生労働省大臣官房審議官
(医政、医薬品等産業振興、精神保健医療、災害対策担当)
(老健局、保険局併任)

2040年問題

団塊の世代が75歳以上になる年である「2025年問題」を念頭に置いた社会保障・税一体改革は、本年の消費税引き上げによって、ひとまず終了する。

しかし、すぐに引き続きチャレンジを続けなければならない山が見えている。それが2040年問題である。

日本の人口ピラミッドを見ていくと、1960年代は生産年齢人口が多く、高齢者人口が少ない胴上げ型だった。そこから約50年、2010年は2、3人に1人で高齢者層を支える騎馬戦型に変化した。

ピークに達した日本の人口は、ジェットコースターが一気に降下するように減少していく。私たちはかつて経験したことのない激動の時代に生きているといえる。

人口構成を詳しく見てみると、この先、総数や生産年齢人口は一貫して減り続けるにもかかわらず、65歳以上の高齢者はしばらく増加が続く。支える人口が減少するのに高齢者は増加するのである。ピークは2042年。日本の社会保障にとって、サービスの需要と供給力のアンバランスが最大となるその時点までが、最も苦しい時期になる。それが「2040年問題」といわれるものだ。

財源については、社会保障給付費対GDP比でみると、これまでの伸びと比べると伸びは鈍化する予測になっていて、やりくり次第で乗り切れるだろう。深刻なのは、やはりマンパワーの確保である。

2040年の就業者を推計すると、医療福祉分野に必要な人材は、全体の19%近くにあたるが、生産年齢人口が急減するので、そのままでは供給側の人手がまったく足りない。限られたマンパワーでサービスを供給できるようにするには、サービス提供の効率化は欠かすことはできない。

打つべき手として、政府は①多様な就労・社会参加、②健康寿命の延伸、③医療・福祉サービス改革の3本柱を掲げている。このうち②と③が医療福祉に特に密接に関係する。②は生活習慣病の発症・重症化予防のため医療機関と民間の事業者(スポーツクラブなど)が連携し、国民の健康管理や運動プログラムの提供、身体を動かす場の拡充、フレイル対策などに重点を置く。③ではロボットやAI、ICTの実用化推進、データヘルス改革、タスクシフティングを担う人材育成、およびシニア層の人材開発活用推進などである。

医師の働き方改革

医療・福祉サービス改革を進めるための生産性の向上は必至である。主要先進国の中で、日本は生産年齢人口が減少を続けている。一人当たりのGDPが日本より大きい先進国は日本より総労働時間が短い。日本は長時間労働であり、生産性が高くないといえる。つまり日本人は働き過ぎであり、効率よく働いていないのである。

こうした日本人特有の働き方は医療の世界でも顕著である。1週間の労働時間が60時間を超える職種の割合は医師がトップである。勤務医では週75時間以上働く者もいる。医師と言えども雇用関係があれば労働者であり、医師自身の健康が確保されなければ、健全な医療の提供もできないだろう。中でも激務の診療科は産婦人科で、次いで救急科や外科である。医療機関の中では大学病院や救命救急機能を有する施設に集中している。

そこで、医師の健康確保と地域で必要な医療提供の両立を図るため、医師の働き方改革に取り組むことになり、長年長時間労働に支えられてきたこれまでの習慣を見直すため、勤務時間の上限や制限を導入することになった。

しかし、いきなり時間外労働を一般則と同等の960時間/年に制限すれば、救急医療に破綻をきたす恐れがある。そのため5年の猶予を持たせ、上限を1860時間/年に設定する。ただしその場合には連続勤務を制限し、9時間のインターバルを設けることも義務付ける。また、月の上限を超えた場合は面接指導をし、場合によっては「ドクターストップ」をかける。こうした案に基づき、まずは1860時間を超えるカテゴリーにいると推定される全国2万人程度の医師を5年かけてゼロにしようとしている。

改革を進めるには勤務の効率化が不可欠となる。例えば外科医。手術は外科医でなければできないが、外来や病棟管理などは、他に代ってもらうことが可能なはずだ。タスクシェア・シフトを進め、会議なども効率化し、勤怠管理を適正に行い、労働時間の短縮化を強力に推進する。医師が医師でなければできない仕事に集中できるようにすることが労働時間短縮のカギになる。

同時に、医師の働き方改革を断行するには、国民の意識改革も必要だ。医療機関のかかり方である。夜中に病院に来て、明日の手術の説明をしてほしいというような無理をいうことは控え、適切な受診方法を考えることが国民の側にも求められる。

医師の働き方改革を奇禍として医療の在り方を社会全体で見直していきたい。

迫井 正深 氏
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