診療報酬・介護報酬の同時改定について
2018年11月1日
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伊原 和人 氏
前厚生労働省大臣官房審議官(医療介護連携担当)
日本の現状把握と2025年問題
診療・介護報酬の改定内容を示す前に、現在の日本の医療介護の実態を確認しておきたい。私が厚生省に入省した30数年前と比較してみると、時代とともに大きく変遷してきたことが如実にわかる。
私が入省したのは1987年。高齢者の占める割合は全人口の10.9%に過ぎなかったが、その後増え続け、2015年には26.6%になり、すでに4人に1人が高齢者という人口動態となっている。同時に出生数も下がり続け、30年前の135万人から2015年度は101万人に、昨年はとうとう94万人にまで下がった。少子高齢化が加速度的に進んでいるのが、数字からはっきりと浮かび上がる。
30年前はヘルパーという言葉はなく、家庭奉仕員と呼ばれ、介護は家庭で担うものとされていた。医療・福祉従事者の割合は日本の全就業者数の5%にすぎず、社会で介護するという意識は乏しかった。しかし、今や12.5%、8人に1人へと急増している。医療介護を取り巻く環境は大きく変容した。
団塊の世代が全員75歳を迎える2025年は、我々がターゲットとしている年である。ここをいかに迎え、乗り越えるか、これが大きな課題となっている。
2025年に向けての作業スケジュールの中に、地域医療構想の実現と地域包括ケア提供体制の構築という大きなプランが掲げられている。
地域医療構想とは端的に言うと、病床数の再編である。急性期病床を3割縮減させ、回復期を3倍にし、慢性期を2割減らそうという構想である。
地域包括ケアとは、高齢者が住まいで生活支援を受け、介護が必要になったら介護サービスを受け、病気になったら医療の提供を受けるという、地域全体でケアに取り組むシステムのことだ。社会的入院が減った今日においては、「時々入院、ほぼ在宅」という状況にあるが、地域包括ケアを各地で展開する中で、こうした状況を支えられるようにしていくことが課題となっている。
今年度の改定の要点
今年度の診療報酬、介護報酬ともにわずかではあるがプラス改定になった。診療報酬本体は+0.55%、各科改定率のうち、医科は+0.63%、歯科は+0.69%、調剤+0.19%となった。薬価だけは、実勢価による引下げに加え、薬価制度の抜本的な見直しが行われたことから、1.65%のマイナス改定となった。介護報酬は+0.55%。介護の人材確保のためにプラス改定となった。
今回の改定には4つの大きなテーマがあった。1.地域包括ケアシステムの推進、医療機能の分化・強化・連携、2.安心・安全で質の高い医療・介護の実現、3.人材確保・働き方改革、4.制度の安定性・持続可能性の確保である。
中でも上述の3.人材確保・働き方改革は新たなテーマだ。現在の水準の医療介護サービスを維持するとなると2025年には1000万人近いスタッフが必要になるという。全就業者の6人に1人が医療・福祉スタッフとして働かないとサービスが提供できない時代に突入する。
しかし、これでは他産業が人手不足になり、社会が回らないということにもなりかねない。これからはロボットやAIの活用が欠かせなくなっていくだろう。
今回特別養護老人ホームの夜勤に見守り機器を導入した場合、夜勤スタッフの増員とみなし、加算が付くことになった。今後は少ない働き手で生産性を高めていくために、ICTを積極的に導入していかねばならない。
入院医療に関しては、平均在院日数が減って、病床の利用率が下がってきたので、7対1病棟のニーズが低下してきた。看護師の効果的な活用の観点からも、段階的に9対1や8対1病棟を増やす柔軟な対応をしていく。
外来・在宅医療では、紹介状なしで大病院受診した時に相応の負担をしてもらっていたが、大病院志向を是正する狙いで、500床以上からだった対象病院を400床以上に拡大した。また、オンライン診療科が創設され、初めて特別な診療料が設定された。
医療機関やスタッフの負担軽減の観点から、医師の配置要件の緩和やチーム医療における専従要件の緩和、さらにテレビ会議による会議参加やテレワークによる画像診断も認められるようになった。
イノベーションをサポートするという方向性は、医薬品、医療機器にも及んでいる。医療機器の中でも、特定保険医療材料は、新規機序が中心となる医薬品と違い、臨床現場の使用経験に基づいた改良や改善が中心になるため、評価が難しい。その是正のため「チャレンジ申請」という制度が設けられた。これは製品導入時にはどの程度効果があるか評価できなかったとしても、追加のエビデンスを積み重ねれば再評価を求めることができる制度で、中医協で認められれば、価格の変更も可能になった。イノベーションの評価につながる大きな一歩だと考えている。
変化に対応するためには、新しいヘルスケアの価値を見出す必要があるが、それは企業、医療者、患者にとって、それぞれにメリットのあるものでなければならない。今回はそうした声を汲み上げ、新たな取り組みにチャレンジした改正であったと思う。