日本医療の挑戦
2017年10月1日
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鈴木 康裕 氏
厚生労働省 医務技監
日本の医療の特徴
日本の医療を考える上で、「高齢化」は重要なキーワードだが、単に高齢化といっても、そのスピードが早いのが大きな特徴である。日本の65歳以上の人口が7%から14%に増加するのに費やした年月は、わずか25年。それに対し、フランスやスウェーデンはほぼ100年要している。日本はフランスやスウェーデンの4倍速で、高齢化が進んでいるのだ。25年という短いスパンの中で、社会保障制度や労働、家族など、社会の根本にかかわる問題に向き合わねばならない。さらには、韓国やシンガポールなど、アジア諸国の高齢化は日本より急速に進んでいくので、日本の経験をアジアでもシェアできるようにしていきたい。
高齢化に対する取り組みが続く中で、日本の医療パフォーマンスは欧米に比べて遜色ないものになっている。日本の医療費は42兆円程度、GDPに占める割合は9.6%、カナダは11.2%。あまり差はないが、高齢化率を調べると日本が23.3%に対し、カナダは14.4%である。日本は高齢化率が高いにもかかわらず、医療費はカナダより低額だ。これは評価されるべき部分だろう。さらに医療保険は日本在住のすべての人をカバーする皆保険があり、自己負担はかなり抑えられている。医療の質も高く、世界でも誇れる医療保険制度を持つ国なのではないか。
未来を見据え、新たな流れを作る
しかしながら、21世紀半ば以降に向けて、持続可能なイノベーションを支えるには、現状のままでは厳しい。
欧米発の再生医療のベンチャー企業が日本に続々参入してきているが、日本の医薬品や医療機器の研究開発では、安全性と有効性に完璧を求めるあまり、承認に時間がかかり、欧米に後れを取ることが多い。そのためにはコストダウンを図りつつ、迅速に対応するという流れを作っていかなければならない。
まず研究コストを下げることが必要だ。ベンチャーにとって、参入しやすい環境整備は欠かせないといえる。開発された医薬品や医療機器などは「条件付き早期承認制度」を活用して、仮価格で上市し、リアルワールドデータに基づいて、正式な価格を決定する。
この一連の流れが肝要になる。安全性は当然確保されなければならないが、有効性についてはある一定の有効性が推計された時点で上市する。その後は費用対効果を考慮し、安価で早く収集したデータを勘案し正式価格を決定する。このスムーズなプロセスの環境整備を官民一体となってバックアップしていきたい。
薬価はこれまで開発費、販売費などのコストベースを重視していたが、今後は患者が受ける恩恵を鑑み、バリューベースを第一にしたい。価格は下げるばかりでなく、上げる必要のあるものは上げていくべきであろう。
日本は医療機器大国である。MRIやCTなどの高額医療機器が他国に比べて飛びぬけて多い。高額医療機器を導入することによって、採算をとるために過剰診療する医療機関があるかもしれない。今後増えると思われる手術支援ロボット、ダヴィンチや重粒子線治療施設などは集約化を図りたい。
ほかにも最先端医療であるがんのゲノム医療やAI(人工知能)の開発になど、挑戦すべき課題は山積みだ。
厚生労働省はこれらの挑戦すべてに本気で取り組む覚悟がある。