医療機器に係る政策の方向性について
2017年6月1日
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武田 俊彦 氏
厚生労働省医薬・生活衛生局長
承認後の適正使用が重要
厚生労働省の大きな役割のひとつに規制行政がある。「規制」というと、自由闊達な産業の発展を阻害すると思われがちだが、実は適切な規制こそが健全な産業を育てている。規制行政は強い日本の産業を作る上で、必要不可欠なものだと私は思う。
しかしながら、規制行政にもさまざまな問題点がある。医療機器でも薬剤でも、日本の承認審査は厳しいといわれているが、一旦承認されれば、あとの規制はかなり緩いのが現状だ。薬剤なら誰でも使用できるし、量もたくさん使え、その分保険も支払われる。承認後の裁量は基本的に医療現場に任されているためだ。
先日、「糖尿病には睡眠薬が効く」と見られかねないテレビ番組があったが、こういった一方的な番組は、問題だ。睡眠薬など依存性のある薬は使用を厳格にしなければならない。今後は承認後の適正な規制、特に適正使用について、もっと考えねばならないし、早急に取り組む必要がある。
市販前・市販後規制の最適化
日本の薬剤や医療機器は高価格で、企業は儲け過ぎだという批判を受けることがある。しかし、決して暴利をむさぼっているのではなく、開発に莫大なコストがかかっている結果ということが多い。価格を引き下げるためには、開発コストを下げ、審査を迅速に行うことが必要だ。しかも、イノベーションは進めていかなければならない。実際そんなことができるのか、と疑問を呈する向きもあろうが、私たちはクリアできると思っている。
それにはさまざまな処方箋があるが、まずは開発段階からの支援強化であろう。承認の最終段階では、それぞれの企業は臨床試験が終わり、データもそろえてくる。それをギリギリでひっくり返されるのは大変である。それなら承認に至る前の早い段階から当局が企業と意見交換をし、協働してよりよいものを作って行った方がいいのではないか。そんな新たな発想に基づき、相談事業の強化に力を入れている。
また、市販前・市販後の規制バランスの見直しも必要だ。市販後にデータ収集が可能であれば、市販前に注文を付けるのを極力控え、負担を軽くしようという規制バランスの見直しである。市販後のデータをしっかりとることによって、開発コストが下げられるのではないかと考えている。
さらに医療機器審査の一層の合理化の実現を目指す。臨床試験の必要性は議論の分かれるところだが、医療側・患者側双方にとって負担が大きいのも事実である。これをもっと合理的な方法に大胆に見直していきたい。
レファランスカントリーを目指して
医療の質の向上のための医療機器の研究開発や普及の促進を目指す基本計画が、平成28年に閣議決定された。その主な内容を紹介する。
1つ目は高度な技術を活用した先進的医療機器を創出する。ゲノム医療や人工知能(AI)を駆使した医療機器の創出を念頭にしている。AIに関しては、まだ期待と現実のギャップが大きく、予断を許さない状況だ。
2つ目は開発にかかわるベンチャー企業の振興の支援をすること。ベンチャー企業には経営や財務の専門家はいるが、薬事や保険関係の専門家が少なく、承認が得られにくい。私たちはそれを補完する組織を整備していきたい。
3つ目は医療機器規制の円滑な運用。来年度早期に治験症例数ガイダンスを取りまとめることになっている。
4つ目は国際展開を促進するための環境整備を行う。現在、先駆け審査指定の申請を受け付けている。
来年度の予算を見ると、特筆すべきは国際戦略関連だろう。日本の医療機器の審査や評価手法は国際標準になれると考えられ、検討会事務局が省内に設置された。この事業に予算が付いたことで、今後、国際会議への出席や提案が可能になっている。折りしもアメリカでトランプ政権が誕生し、保健行政の先が読めないこともあるが、国際戦略は常に視野に入れている。最終的には、我が国はレファランスカントリーを目指していく。
平成29年に予定されていた消費税の引き上げが、31年に延期され、財源は厳しい。しかし、どのような環境であれ、医療制度は維持していかなければならない。なお数年不透明な状態が続くが、開発コストを下げること、医療保険に過度な負担をかけないこと、イノベーションの推進や患者を第一に考えることなどは、財源があろうとなかろうと不変のテーマであり、守らねばならないことである。