今こそ、イノベーティブな医療機器の開発・普及に加速化を
2016年6月1日
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三宅 邦明 氏
厚生労働省医政局経済課
医療機器政策室室長
消費税増税の再延期の方針が固まった。それに伴い、今年度の診療報酬の改訂はなくなり、特定保険医療材料価格調査の実施もなくなった。2年に一度の改訂というルールに例外を設け、改訂年以外に償還価格の変更をせずにすんだことにより、日本市場の予見性を保てたことは誠に喜ばしいことである。
ところで、人間は大きな桁数の数字には感覚がついて行かないところがある。1兆円という3文字ですむお金の規模感を、皆さんはお持ちだろうか。1兆円分を1万円札で積み上げて横にすると、厚生労働省のある霞ヶ関からどれくらいまで1万円札の橋が出来るだろう。例えば1万円札を100枚重ねると大体1cmである。新宿までで5km、ディズニーランド横に位置する葛西臨海公園までは10kmあるが、実は、1兆円分の1万円札の橋は、霞ヶ関から葛西臨海公園まで渡されるのであり、その巨額さに驚く。
そのような視点で、消費税増税は1%につき、おおよそ2.5兆円の税収が入り、社会保障費に使われる予定であったことを考えると、その延期を素直に喜んでよいのか難しいところがある。毎年、我が国の医療費が1兆円ほど増加している中、医療費の抑制への声がますます大きくなることが予想されるからである。
一方、延期により今後は、2018年の診療報酬制度改訂を見据えつつ、革新的な医療機器が創出、普及されやすい政策的支援をどのように作っていくかを業務の中心とすることができる。しかしながら、上記の状況を踏まえれば、次期の改訂は、医療費の抑制に対する圧力が相当厳しくなることが、容易に予測できる。
そのため、新たな制度設計においては、イノベーションの促進へのインセンティブになる、疾患当たりの医療費の抑制になるという説明ができることなど、よりメリハリをつけたものが重要となるであろう。予後を改善する、侵襲性がより低くなるなど患者個人への裨益を増やす特定保険医療材料に対し、きちんとした対価が払われる方向を強化することを前提としつつも、社会保障全体を見渡しつつ、医療安全、感染防止、ITを活用した医療の効率化、遠隔医療を活用した医療資源の効率的運用など、マクロで医療の質を上げていくような広い意味での機器をどのように導入し、活用していくかという視点が欠かせないだろう。それらのアイディアの骨格を作り、エビデンス、具体的運用のイメージなどの肉付けをする期間として、皆さんからの提案・議論を楽しみにしている。