一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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米国医療機器・IVD工業会

ビジネス・パートナーとの倫理的関係に関するガイドライン

ビジネス・パートナーとの倫理的関係に関するガイドライン

(2022年6月27日制定)

1.はじめに

 「患者第一(“Patient First”)」の社会を実現するためには、医療機器及び体外診断用医薬品(IVD)事業者(以下、「医療機器事業者等」という。)の革新的で信頼性が高くかつ効果的な医療機器及びIVDが継続的に生産され、また医療機関等に対して安定的に供給され、患者が必要とするときに滞りなく使用できる状態にしておくことが重要です。

このように患者の継続的かつ安定的なアクセスを確実にし、その拡大を促進するためには、医療機器事業者等は、医療機関等へのサプライチェーンを担い、その安定化に大変大きな役割を果たしている第三者との契約がしばしば必要となります。本ガイドラインで「ビジネス・パートナー」とは、販売店、代理店、特約店、卸売業者、エージェント及びブローカー等と呼称され、その役割は、単に物流を担う場合から、医療機器及びIVDを購入し再販売する場合、単に販売促進を行う場合など、契約内容により多岐にわたる第三者をいいます。

一方、これまでも医療機器事業者等が関係する領域において、コンプライアンス違反が疑われる事案の報道がなされてきましたが、残念ながら2021年には寄付と関連した医療機器事業者の第三者供賄に関する報道がなされ、患者をはじめとする国民の医療機器事業者等に対する信頼を大きく損なう事態となりました。このケースでは、医療機器事業者が代理店に特別値引きで製品を出荷して当該代理店に資金をプールし、その資金が寄付という形で第三者供賄に使われたと報じられています。

患者をはじめとする社会に信頼された真の 「患者第一(”Patient First”)」の社会を実現するためには、医療機器事業者等がビジネス・パートナーとの間で高いビジネス倫理基準に基づいた関係を築き、ビジネス・パートナーと共に倫理的にビジネスを行うことが必要不可欠です。そのためには、一般社団法人米国医療機器・IVD工業会(以下、「AMDD」という。)会員企業が適用を受け、ビジネス・パートナーとの取引における要求が規定された米国海外腐敗行為防止法(U.S. Foreign Corrupt Practices Act, 以下、「FCPA」という。) 及び同ガイドラインを遵守する必要があります。

そこで、こうした現状をふまえ、AMDD会員企業(以下「企業」という。)が高いビジネス倫理基準に基づき、ビジネス・パートナーと共に倫理的にビジネスを行い、革新的で信頼性が高くかつ効果的な医療機器及びIVDを継続的かつ安定的に医療機関等に対して供給し、患者が必要とするときに滞りなく使用できる状態にするべく、本ガイドラインを制定することとしました。本ガイドラインが、企業がビジネス・パートナーと倫理的な関係を構築する際に、その指針を策定するための一助となることを期待しています。

2.本ガイドライン使用にあたっての注意点

本ガイドライン制定の目的は、企業が企業と共に活動するビジネス・パートナーと倫理的な関係を構築する際に、FCPA及び同ガイドライン等の関係する法令の要求をふまえた上で、望ましいあり方についての参考となる一つの指針を示すことにあります。

本ガイドライン使用にあたり、以下の事項に注意してください。

  1. 本ガイドラインは、あくまでビジネス・パートナーと倫理的な関係を構築する際に各社で作成する業務手順の参考となるもので、AMDDとして本ガイドラインの実施を義務付けるものではありません。ビジネス・パートナーと倫理的な関係を構築することの目的及び意義並びにFCPA及び同ガイドライン等関係する法令の要求事項を正しく理解し、各社で積極的に不正防止に取り組むことが重要です。
  2. FCPAをはじめとする、本ガイドラインに関係する法律や基準は、今後適宜改定されることが予想されます。本ガイドライン作成日時点の各基準には対応させていますが、新たな法律や基準の制定、あるいは現行の法律や基準が改定された場合には、各社自身において、当該新規・改定の法律や基準に合わせた各社での業務手順見直しが必要となります。

3.ガイドライン

1.文書による反汚職方針/手続き

(解説)

企業が自ら汚職行為を行うことが禁止されるのみならず、自らが禁止されている汚職行為を傀儡としてビジネス・パートナーに行わせることも禁止されています。

「汚職」とは、本邦にて適用される刑法のみならずFCPA、AMDDの定める倫理綱領、日本医療機器産業連合会の定めるプロモーション・コード、医療機器業公正取引協議会の定める医療機器業公正競争規約及びその他すべての関連する業界コード等に違反の恐れがある、金銭、金銭等価物に限られず、あらゆる価値の提供を指しています。

リスク分野は、上記にとどまらず会場費、スポンサーシップ、サービス料、販売・マーケティング、サンプルなどの事業活動や、HCPや政府機関・公務員とのやりとりといった様々な分野にも目を向けるべきです。また、これらについて、申請、承認及び支払い、といった一連のプロセスの統制が望まれます。

当該方針には、反汚職のみならず、日本法、外国法(日本への域外適用がある場合)、国内外業界自主規制、企業の倫理綱領及び企業方針等についてもビジネス・パートナーに遵守の徹底を求めていることを記載することが良いでしょう。また、ビジネス・パートナーに関与する自社及び関連企業の従業員はもちろんのこと、ビジネス・パートナー及び広く利害関係者に対しても、その内容及び遵守すべき事項について周知し遵守を求めることが望まれます。企業の倫理規範、倫理綱領又は行動規範等の倫理的価値観を記した文書と合わせて、当該方針を公開、配信又は配付してください。

2.リスクアセスメント

(解説)

FCPAガイドラインでは、実際のリスクアセスメントに応じた企業毎のコンプライアンス制度の策定と導入が強調されています。リスクは、地域、業種、ビジネス・パートナーの規模等により異なり、一律にあてはまるコンプライアンス制度はありません。低いリスク分野に経営資源を投じるよりも、リスクの高い分野に効果的にリスクを低減するコンプライアンスの施策を講じる必要があります。

リスクアセスメントにおいては、以下のような評価項目を用いることができます。ただし、下記が全てではなく、企業が重視する評価項目を加える、又は減らすことができます。

  1. ビジネスを行う国のCorruption Index(注)
  2. 企業がどの程度、ビジネス・パートナーの活動を管理できるか。
  3. ビジネス・パートナーの売上規模
  4. ビジネス・パートナーが別の企業(例:企業にとって直接契約がないものの取引の内容に応じてビジネス・パートナーと最終顧客との間に介在する法人や個人(以下「二次代理店等」と言う。))を起用するのか。
  5. ビジネス・パートナーの事業が、企業のビジネスにどの程度依拠しているか。
  6. 企業のビジネスが、どの程度当該ビジネス・パートナーに依拠しているか。
  7. ビジネス・パートナーが企業の利益のために行う業務内容は何か(単に病院から受注し、指定された製品を販売するだけか、もしくは企業の製品のプロモーション活動や、立会いなどの業務を行うか、病院側の利益のために行動するともいえるような病院との特別に親密な関係が見られるか等)

(注)Transparency Internationalの提供するCorruption Perceptions Indexなどが参考になる。

リスクアセスメントの結果、高いリスクと認定されるビジネス・パートナーに対しては、取引の可否判断を行い、この段階で取引ができると判断した場合も、詳細なデューデリジェンスや平時監査の頻度を高め、コンプライアンス研修を頻繁に行うことが望ましいでしょう。また企業の限られた人的リソースを考慮すると、リスクアセスメント結果で比較的低いリスクと認定されるビジネス・パートナーに対しては、デューデリジェンスや平時監査を軽減するなどの判断ができるなど、リスクアセスメントを行うメリットは大きいと考えられます。

逆にデューデリジェンスや平時監査を行う過程で新たなリスクを検知できる場合もあり、デューデリジェンス、平時監査、リスクアセスメントは相互に検知したものを反映し合いながら、全体としてのプロセスを構築することが理想的であると言えます。

3.デューデリジェンス・プログラム

(解説)

有効なコンプライアンス体制を構築するには、先行して実施するリスクアセスメントの結果を踏まえて、契約関係に入る前にビジネス・パートナーに対するデューデリジェンスを実施する必要があり、これらをデューデリジェンス・プログラムとして確立することが期待されます。

デューデリジェンスは、リスクアセスメントの結果判明したリスクレベルを基本に、取引の内容や規模などを考慮したリスクベース・アプローチを基本とし、その実施にあたってはビジネス・パートナーの適格性及び関連性(ビジネス・パートナーは企業のために活動を行う能力があるか(人員・規模・操業年数など)、正確かつ適正に取引及び資産の処分を反映する帳簿・記録を作成・維持しているか、企業がビジネス・パートナーと取引を行う合理性があるか(販売対象製品・売り上げ見込みなど))、ビジネス上の評判、過去の法令違反の有無、政府関係者との関係の有無、利益相反の有無、内部統制を含むコンプライアンス体制の整備状況などを把握する必要があります。なお、デューデリジェンスの対象には、二次代理店等も加えることができれば、より理想的です。

デューデリジェンスにおいては、広く一般的に入手できる情報、信用情報を含む外部の調査会社からの情報、ビジネス・パートナーに直接提出を依頼して入手する情報などを総合的に評価することとなります。ビジネス・パートナーに直接提出を依頼して入手する情報については、AMDDリーガル・コンプライアンス委員会作成の「FCPAコンプライアンスに関するお取引先様向けモデル質問票(https://amdd.jp/about/compliance/training/)も利用可能です。

デューデリジェンスの過程でレッドフラッグ(対処すべき課題。例えば、贈賄罪、談合など独禁法違反の事例が判明したり、株主に医療従事者やその親族が含まれ、当医療機関との取引上、利益相反が予想される場合等)が表面化した場合には、さらに精度を高めてリスクを特定し、リスクに対処する必要があります。その結果としてリスクが許容できないレベルである場合には、企業はビジネス・パートナーと契約を締結しないか、契約を終了するか、又は契約を更新しないようにしなければなりません。

また、企業は、ビジネス・パートナーとの継続的な関係についてもデューデリジェンスをアップデートすることが期待されます。例えば、契約更新時やリスクアセスメントに基づき設定した期間など定期的にビジネス・パートナーに対しデューデリジェンスを実施することが推奨されます。

4.文書による契約

(解説)

企業の腐敗行為防止の実施を可能とする内容として、以下a~hのような条件が考えられます。なお、以下a~dは、米国司法省(U. S. Department of Justice)の要請をふまえたものであり、契約書に含めることがより強く望まれます。

  1. 贈賄防止の表明保証・誓約
  2. 反汚職に関連する日本法及び外国法(日本への域外適用がある場合)、国内外業界自主規制、倫理綱領及び企業方針等の遵守
  3. 関連する帳簿、記録、契約書等の書類へのアクセスを含む、独立した監査及びモニタリングの実施権
  4. 適用される反汚職関連法令、またはその表明保証・誓約の違反の結果として、解除を行うこと
  5. ビジネス・パートナーのコンプライアンス研修の受講義務
  6. 二次代理店を起用する場合や二次代理店を変更する場合の事前通知又は承認取得義務
  7. 契約違反に関する速やかな通知
  8. 契約更新時のデューデリジェンス実施権

なお、直接の契約相手ではない二次代理店等に対しても、企業と直接契約のあるビジネス・パートナーと二次代理店等との間で企業の腐敗行為防止の実施を可能とする内容を含む契約を締結していただくことや、二次代理店等への直接のデューデリジェンスやリスクアセスメント、二次代理店等からの贈賄防止の表明保証・誓約の取得等を実施ができれば、より理想的です。

いずれにしても、上記のとおり、取引を開始するに先立ち、契約書をはじめ、何らかの書面の形式にて腐敗行為防止の実施を可能とする内容を規定しておくことは極めて重要であり、当該ビジネス・パートナーがこうした書面の締結を拒絶したり、難色を示す場合は、その事実自体をもって当該ビジネス・パートナーとの取引その他の関係性を開始・継続することを企業としては再考すべきと考えられます。

5.研修及び教育

(解説)

企業はその製品やサービスを購入し販売する、又は、購入はせずともその製品やサービスの販売促進に従事するビジネス・パートナーに対して、定期的に法令遵守の研修及び教育の機会を提供し、腐敗行為発生の予防に努めることが望まれます。また、この研修及び教育が、企業と直接契約を結ぶビジネス・パートナーのみならずエンドユーザーが企業の製品やサービスを購入するまでに介在するすべての二次代理店等に対して提供されることを確保することが望ましいです。この場合、企業又はビジネス・パートナーは、二次代理店等に研修及び教育の機会を提供するために必要な措置を講じることが望まれます。

AMDDは、日本国内のビジネス・パートナーを対象としてFCPA等の適用法令に関する標準的な内容のトレーニングを定期的に提供しています。企業又はビジネス・パートナーはこのトレーニングを活用し、自らが企業の事業活動のために契約するビジネス・パートナー又は二次代理店等に研修及び教育の機会を提供することが推奨されます。

6.モニタリング/平時監査

(解説)

ビジネス・パートナーの状況は絶えず変化するため、企業は、デューデリジェンスを実施のうえ契約を締結すれば終わりというわけではなく、リスクベース・アプローチの観点から、ビジネス・パートナーのリスクに応じ、不祥事発生時の有事監査のみならず、定期的にモニタリング及び平時監査を行うことが望まれます。

具体的なモニタリング及び平時監査の手法が、契約書など企業内の書面に留まるのか、それともビジネス・パートナーに対するインタビューやビジネス・パートナーの書類(例えば社内規定、承認権限表、会計帳簿など)の確認を含めたものに踏み込むのか否かも、ビジネス・パートナーのリスクや発見した事項などを総合的に勘案し、企業が判断することになります。なお、このようなビジネス・パートナーのリスクに応じた、企業によるビジネス・パートナーに対するモニタリング及び平時監査は日本の医療機器業界においても既に行われています。

企業は、ビジネス・パートナーに関し過去の法令などの違反事例が発見された場合、日本法、外国法(日本への域外適用がある場合)医療機器業公正競争規約、国内外業界自主規制、企業の倫理綱領及び企業方針等の遵守状況に関する法令遵守を証明する文書をビジネス・パートナーに求めることが望まれます。

多くの医療機器のビジネス・パートナーは一般社団法人 日本医療機器販売業協会に加盟しており、また同協会は医療機器業公正取引協議会の加盟団体であることから、医療機器業公正競争規約に関する一定の理解や事業規模に応じたコンプライアンス体制が整備されていると思われます。これに対して、企業の販売促進活動を企業の利益のために行う会社や個人(いわゆるエージェント、ブローカー)は、医療機器業公正取引協議会の加盟団体に所属していないことが多く、医療機器業公正競争規約の理解や社内のコンプライアンス体制について企業はより注意深くモニタリング及び平時監査を行うことが望まれます。

7.適切な是正措置

(解説)

企業が適切なリスクアセスメントやデューデリジェンスを行い、契約を締結して取引関係に入った後に、ビジネス・パートナーが関連法令に違反したことや、反倫理的行為に関与したこと(以下「違反行為」という)が判明する場合があります。発覚の経緯は、ビジネス・パートナーからの自己申告、捜査等に関する報道、企業の営業部門による情報入手など様々です。

ビジネス・パートナーによる違反行為が発覚した場合、企業はその性質、態様に応じて是正措置を採ることが望ましいといえます。具体的には、是正措置の検討にあたっても、リスクベース・アプローチを基本とし、違反行為の性質(贈賄、不正会計、独占禁止法違反などの法令違反か、医療機器業公正競争規約などの業界自主規制違反か、倫理綱領・企業方針違反か)、態様(組織的か否か、反復継続の有無、企業との取引との関連性)を、ビジネス・パートナーへの訪問調査、ビジネス・パートナーからの報告書の提出などを通じて把握することが期待されます。

検討の結果、違反行為の性質・態様が重大で、当該ビジネス・パートナーとの取引を継続することのリスクが是正不可能と判断される場合には、取引終了・契約解除などの対応を行うことが必要となります。取引継続の判断を行う場合にも、ビジネス・パートナーに対し、再発防止策の要請及び進捗報告、企業によるトレーニングの実施、それらが完了するまでの取引停止、リベートの停止等の是正措置を行うことが推奨されます。

4.参考情報

本ガイドラインに関連した情報の一覧を以下の通り記載しました。企業において、必要に応じて参考にしてください。なお、ここで紹介する参考情報は、AMDDがその内容を公式に保証するものではありません。

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