費用対効果評価制度の導入によるイノベーション促進への期待
2021年5月20日
費用対効果評価制度は、患者アクセスを阻害しない形で、現行の価格算定方式を補完する制度として価格調整に用いられます。費用対効果に優れた医療機器が適切に評価され、使用されることで、イノベーションの促進につながることが期待されます。一方、費用対効果評価が適正に行われるためには制度の継続的な改善が必要です。
- 費用対効果評価制度
- 市場規模が大きい、または高額な医薬品や医療機器を対象に、費用対効果を評価し、その結果を価格に反映させる制度です。費用対効果が低いものは価格を引き下げ、費用対効果が高いものは価格を引き上げます。2016年4月から試行的に実施され、2019年4月から正式に導入されました。
Point
- 市場規模が大きい、または高額な医療機器等を対象に、費用対効果の評価を踏まえた適正な価格設定を行うために「費用対効果評価制度」が導入された
- 費用対効果は、既存の製品と新しい製品との比較に基づき算出されるICER(増分費用効果比)という尺度で評価され、費用対効果が高いものは価格が引き上げられるため、イノベーションの促進につながる
- 対象品目の選定基準、評価方法など制度の運用によっては、企業のイノベーション推進の意欲を削ぐことにつながり、デバイスラグといった問題が新たに生じるリスクがあり、医療機器の特性を考慮した継続的な制度の改善が必要
費用対効果を踏まえた医療機器の価格設定
医療保険制度の持続可能性の観点から、2019年に「費用対効果評価制度」が本格的に導入されました。これは、医療機器の保険償還価格(医療機関などが保険請求できる金額)のうち、画期性や有用性、改良性などが認められることで上乗せされる補正加算分に対して、費用対効果の評価結果も反映して保険償還価格を調整する制度です。
本制度では、市場規模が大きい、または単価が著しく高いなど、財政への影響が大きい医療機器が評価の対象となり、費用対効果の悪い品目は価格を引き下げられ、医療費の減少につながる品目などは価格が引き上げられます。
費用対効果は、増分費用効果比(ICER:Incremental cost-effectiveness ratio)という尺度で評価します。ICERは、既存の製品と比較して、新しい医療機器を使用した際にかかる「追加の費用」を、新たに得られる「追加の効果」で割って求めます。
費用対効果の分析は、厚生労働省から依頼された公的かつ中立的な立場の「公的分析班」と、製品の製造販売者とがそれぞれ行い、双方の分析結果が検証されます。最終的には、医療経済や臨床・医療統計・医療倫理の専門家からなるメンバーで構成された費用対効果評価専門組織が総合的に評価を行った上で、中央社会保険医療協議会(中医協)にて保険償還価格が決定されています。
費用対効果評価制度の期待と課題
費用対効果評価が適正に行われ、費用対効果に優れた製品の価格が引き上げられ、費用対効果の悪い製品から優れた製品に移行することでイノベーションの促進につながることが期待されます。
一方で、費用対効果を保険収載の可否の判断に利用すべきとの主張もありますが、費用対効果評価の結果のみで患者アクセスを阻害することがないように、多面的な価値を評価することが重要と考えます。
また、費用対効果評価の利用が価格調整に限られる場合においても、対象品目の選定基準、評価方法など制度の運用によっては、企業のイノベーション推進の意欲を削ぐことにつながり、デバイスラグといった問題が新たに生じるリスクがあります。
医療機器においては、費用対効果評価の経験が限られているため、引き続き事例を集積した上で議論をする必要がありますが、評価がICERに大きく依拠する中で、倫理的にランダム化比較試験の実施が困難であったり、習熟効果や製品改良による影響など、医療機器の特有の課題があることから、継続的にガイドラインを含む制度の改善が必要と考えます。