一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

AMDD logo

一般社団法人
米国医療機器・IVD工業会

団体活動報告

【セミナーレポート】 AMDD、日本医師会・AdvaMedとシンポジウムを共催

2018年6月1日

キーワード

6月1日、日本医師会、先進医療技術工業会(AdvaMed)、米国医療機器・IVD工業会(AMDD)は共催で『シンポジウム「活気ある国家:生きがいの創出」革新的な医療機器及び医療技術の価値:経済成長、生産性向上、及び医療費削減』を開催しました。その内容についてご紹介します。

開会にあたり、日本医師会会長で世界医師会会長も兼任する横倉義武氏が「日本の平均寿命の高さはユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)としての国民皆保険によるところが大きい。医療機器の革新や医療技術の進展もUHCの基盤の上になくてはならない」と挨拶しました。

健康保険組合連合会副会長の佐野雅宏氏は、「日本は国民皆保険を長く維持してきたが、少子高齢化、人口減少の時代になり、崩壊の危機に直面している。次世代が夢と希望を持つためにも、生きがいの創出は格好のテーマであり、活発な議論を期待する」とエールを送りました。

続いて、「優れた医療機器を国民に迅速かつ安全に届けるための議員連盟」会長の衆議院議員、鴨下一郎氏が挨拶に立ち、「“生きがいの創出”はQOL向上のさらに先を行く先進的なテーマで、医療界、保険界、企業、行政などさまざまな立場の人たちが交流できる素晴らしいシンポジウム。今後このような取り組みが広がることを願っている」と述べました。

活気ある国家、生きがいの創出というテーマが多くの関係者の関心を呼び、国会議員も多数出席した中で、シンポジウムは各パネリストから多くの課題や提案がありました。

開会挨拶/加藤幸輔AMDD会長
医療機器の価値―患者さんのQOL向上と、生きがい創出への貢献

ひとつの部屋を占有するほど大きな診断機器PET-CTも、5ミリ未満の脳血管治療用プラチナコイルも医療機器です。診断系、治療系、その他医療を支えていく医療機器の全てが医療と患者さんに価値を提供しています。

その役割として、まず診断系医療機器はより早く疾患を発見し、早期に治療が受けられるようにします。治療系医療機器は根治的であり、治療を受けることで再び日常生活を取り戻せるようになります。また、日々の進化によって、より少ない負担で治療が受けられるようになり、治せなかった疾患が治療できるようになります。つまり、「健康寿命の延伸」に貢献しているわけです。

具体的には、これまで重症の大動脈弁狭窄症患者のうち約4割は様々な理由で外科的手術を受けられませんでしたが、経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)が生まれたことで、治療可能となり日常生活に復帰できるようなりました。転倒・骨折は高齢者が要介護状態になる原因の10%を占めていますが、これも人工関節により、日常生活への復帰、運動機能やQOLの向上を果たせるようになりました。患者さんの自立は介護離職を防ぐ効果もあります。

先進医療への投資による経済成長の促進も、日本経済にとって非常に重要な側面です。革新的な医療技術の開発による新規事業、新たな雇用、そして人材の育成が行われます。医療機器の活躍は、財政均衡に貢献していると自負しています。

医療費削減の必要性は十分認識しています。ただし、医療費、医療ニーズの増加に伴って、患者のための価値ある医療を提供していくことがより強く望まれていることもまた事実です。最新の医療技術や医療機器へのアクセスを確保しつつ、サステイナブルな社会保障を実現するためにもぜひ役立っていきたい、それが患者QOLの向上と「生きがいの創出」につながっていくと思います。

横倉義武日本医師会会長
佐野雅宏健康保険組合連合会副会長
鴨下一郎衆議院議員

基調対談/池野文昭氏、ロバート・コワル氏
機器の小型化が患者さんの負担を軽減、社会復帰を促し、QOLを向上

基調対談はスタンフォード大学の主任研究員、池野文昭氏がモデレーターになり、米国メドトロニック社のメディカルアフェアーズ·バイスプレジデントで、医学博士でもあるロバート·コワル氏との間で行われました。同社の心臓ペースメーカー開発の考え方などについて意見を交わしました。最初にコワル氏は同社が心臓ペースメーカーの開発にかかわるようになった歩みを紹介しました。

メドトロニック社が世界初の電池式体外型ペースメーカーを開発したのは1957年。その後、1960年代に世界で最初の体内埋め込み型ペースメーカーを開発しました。ペースメーカーは体外式から体内埋め込み型へ進化を遂げ、2016年には最新型のMRI対応型リードレスペースメーカーの開発に成功しました。

「これは長さ約2.5 ㎜、重さ1.75gのカプセル型、リード線はなくフックで心室に止めるもので、電池寿命も12.5年と長い。日本ではペースメーカーを使用する患者の44%が使用し、リードレスペースメーカーを導入している国の中では、世界一の普及率といわれています」。

池野氏がこの革新的なイノベーションのコストについて質問すると、「確かにコストはかかる。しかし、それによって優れた効果がもたらされることを考えたら、それほど高いとは思えません。驚くべくことに、14年間のトータルコストから考えると、従来のペースメーカーよりも安くなるのです。93%も小型化されたペースメーカーの使用によって、患者さんの負担は軽減され、社会復帰を促し、QOLも大幅に向上させました。イノベーションは生きがい作りという面にも貢献していると思います」とコワル氏は答えました。

「世界はますますボーダーレスになっているが、これについてはどう思いますか」と池野氏。これに対してコワル氏はグローバルな企業人ならではの考えを披露しました。

「確かにボーダーレスですが、依然として異なった地域で異なるニーズを求めている人がいます。メドトロニック社のミッションは患者の生きがいの回復ですが、生きがいもたくさんの異なる側面を持っているのです。これまで多くの技術者がいかに合併症を少なくするかに注力してきました。しかし、それぞれの地域によって、何を優先すべきなのかを知ることも重要です。地域のニーズに合わせて、少し手を加えれば使用できるような製品を作っていきたいと思います」。

(写真左より)池野氏、コワル氏

パネルディスカッション-臨床・医療行政・患者の視点より

後半は慶應義塾大学総合政策学部の印南一路教授が座長を務めるパネルディスカッションが行われました。パネリストは患者の立場から、バレエインストラクターの小島祥子氏、医師の立場からは福岡山王病院循環器センター長で国際医療福祉大学循環器内科教授の横井宏佳氏、行政からは厚生労働省医政局長の武田俊彦氏、経済産業省商務情報政策局商務·サービス政策統括調整官の江崎禎英氏、それとスタンフォード大学の池野文昭氏の5人が登壇し、それぞれの立場から積極的な意見が交わされました。(役職·肩書きは開催時のものです。)

医療機器の恩恵を受ける側と扱う側と

バレエを教えている小島氏は、長年股関節の違和感や痛みに悩まされ、臼蓋形成不全による変形性股関節症と診断されました。徐々に悪化し、2014年に人工股関節置換術を受けました。

「手術前は人工のものを体に埋め込むことに抵抗感があり、再置換の不安もありました。しかし、再置換について先生の『人工股関節は年々改善されていて、たとえていえばタイヤ交換のようなもの』という言葉を聞いて、安心して手術に踏み切りました。今では同じ症状に悩む人に手術を勧めています。」

最新の医療技術や医療機器の恩恵を受け、その後リハビリを経て、バレエ教師として復帰を果たすことができました。

カテーテルを使った循環器の血管治療のスペシャリスト、横井氏は、医療機器を使用する立場です。1990年はじめにステントが開発され、2000年にはステントの表面に再狭窄を抑制する薬剤を塗ったデバイスが登場し、1回の治療で治癒できるようになってきました。この低侵襲治療の導入には、課題もありました。

「医療機器はほとんどが外国製で、長い間デバイスラグがありました。しかし、米国FDAの方などと協力してプロジェクトを実施し、日本に合わせた申請や認可の手続きを検討し、整備してきた結果、改善の方向に向かっていき、今では心臓の血管の医療機器におけるデバイスラグはほとんど解消され、よりイノベーティブな機器を早く届けられるようになりました」。

医療が進化するには、私たちだけではその力が足りないので、医療機器メーカーの方たちとチームを組んでやっていきたい。医師と医療機器の会社の連携サイクルを作ることが必要と語り、「臨床医の背中を支えてほしい」と結びました。

行政の取り組み方

武田氏は今後の医療費はこれまでのように急激な伸びでなく、人口構成の変化により緩やかになるといいます。

「人口減少に伴い、保険の支え手も減っていき、少ない手間や費用でいかに質の高い医療を提供するかが今後の課題です。 単に寿命を延ばすのではなく、健康寿命を延ばすことが要になります。私は質の高い医療は医療費の面でも最適なものだと考えていて、どのような形で適正使用していくかが、医療費削減のポイントになると思います」

また、イノベーションの促進には、チャレンジする心が大切で、それを支えるためには官民学が協力しなければならないとも主張しました。

続く江崎氏は、日本の弱点を鋭く指摘されました。

「優れた技術があるのにもかかわらず、日本での医療機器開発が進まない理由は、一旦事故があれば、過剰にバッシングを受けるというリスクがあるからです。企業の存続にかかわることです。ペースメーカーの開発もかつては最先端を進んでいましたが、結局、リスクを取れず撤退しました。医療機器開発は患者の声を聞きながら、トライ&エラーで進めるのですが、日本企業は環境もあり、それが難しい」

しかし、日本が活躍できる分野はあります。

「高齢化が進むにつれ、機能低下を遅らせたり、体調の異変に早く気づいたり、生活を支えたり、という分野が重要になってきます。その分野の医療機器であればイニシアチブをとることが可能なはずです。私はイノベーションとは技術開発ではなく、『常識を変える』ことに尽きると思うのです。それには患者さんの声に耳を傾けることが一番大事なのです」。

活気ある国家への道

かつて日本の無医村で僻地医療に取り組んで、臨床医として働いていたという池野氏は、アメリカへ渡ってカルチャーショックを受けたといいます。アメリカでは医科大学を卒業したからと言って、必ずしも医師にならない人が多いからです。かつて赤ひげ先生だった池野氏も多様な活躍をするロールモデルが周囲にたくさんいたため、企業の顧問やアドバイザーを務めるビジネスパーソンになりました。

「ベンチャーには3種の人がいます。『若者、よそ者、ばか者』です。確かに若い人が多いし、よそから来た人も多い。ばか者というのは、賢い人が失敗した時を考えて手を出さないのに対し、ばか者は成功した時を考える」とベンチャー起業を目指す人の持論も展開されました。

「私は日本にもっとユニークな国になってほしいのです。高齢化に伴い、データの蓄積が膨大な量になってきます。このビッグデータは宝の山であり、社会資源です。日本はそれを世界に発信していくべきだと思います」。

最後は活気ある国家への指針を示していただき、パネルディスカッションは盛会のうちに幕を閉じました。

本シンポジウムの全報告書はこちら

ニュースルーム一覧に戻る
pagetop