一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第1集

がん-リンパ節転移をPETで発見

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M.N.さん
(47歳・女性・千葉県)

1995年ごろから毎年、亀田総合病院附属幕張クリニック(千葉市)で職場の人間ドックを受けていました。私は早くから乳腺の検査で「右乳房に石灰化した部分がある」と指摘され、ずっと経過観察中でした。ところが2001年10月の乳腺外科受診の際、「最近、左の乳房に痛みがある」と訴えたところ、左側の乳房に乳がんが見つかったのです。

自分ではしこりが手に触れることもなく、「がんは痛まない。痛みがあれば乳腺症だ」と思い込んでいましたから本当に驚きました。先生に指摘されてみると、確かに全体に硬い感じがします。

乳がん全摘後、念入りに検診

そこで改めて細胞診とMRIの検査を受けたところ、初めて全容が明らかになりました。乳管に沿って広がるがんとのことでした。乳がんと宣告されたとき、他人事みたいな感じで実感がわきませんでした。しかし帰りのバスの中では泣きたい気分になりましたが、母も一緒だったので我慢していました。今でこそ、乳がんは治る病気と言われますが、その時は真っ先に「死ぬかも知れない」などと不安な気持ちでいっぱいでした。ちょうど40歳のときのことです。

マンモグラフィー(乳腺・乳房専用のX線撮影)やMRI検査、超音波診断を受けなおした結果、「乳房温存手術ではなく、全摘が望ましい」と言われました。その数日後から術前の抗がん剤投与が始まります。がんが縮小する場合もあるし、術後に必要となる抗がん剤の効き具合を見る上でも大事とのことでした。主治医の福間先生は信頼できそうな方でしたので、すべてお任せすることにしました。

そして2002年1月、左乳房の全摘手術を受け、抗がん剤投与やホルモン療法が始まりました。そして半年に1回ずつCTやMRI、マンモグラフィー、腹部超音波の定期検診が続きました。

やがて2006年9月、亀田総合病院にPET(ペット)センターがオープンした機会にCTとMRIに代えてPET-CT検査を受けることになりました。ところがなんと、その検査で鎖骨上リンパ節に再発転移巣が発見されたのです。全摘手術の約4年半後でした。「今回も大したことがなければよいが……」と定期的に受けている検査ですが、ついに再発が確認されたのです。「手術後5年たてば第一段階をクリアーする。完治に一歩近づくことになる」と信じていましたから、本当にショックでした。自分では自覚はありませんでしたが、言われて触ってみたら、やはりぐりぐりが触れました。

鎖骨のリンパ節に再発が見つかってからの治療は、抗がん剤投与でした。副作用などを確かめたあと、最終的にパクリタキセルという抗がん剤を続けました。また2カ月ぐらい遅れてトラスツズマブの投与も始まり、半年間ほど併用しましたが、パクリタキセルは手足のしびれが強くなったので、トラスツズマブ1つに絞られました。薬を減らしたとき、放射線治療をやってみる価値があるといわれたので、2007年4月から入院し、5週間にわたって鎖骨上リンパ節に25回の放射線照射を受けました。今も亀田総合病院附属幕張クリニックでカペシタビン(経口薬)とトラスツズマブ(週1回点滴)を続けています。

全身検査が1回ですむ便利さ

その後もPET-CT検査はほぼ半年おきに続けていますが、ときどき脳への転移を調べるため頭のCT検査をやり、肝臓への転移が怖いので腹部の超音波も受けています。その後、「転移巣が少し小さくなっている」と言われましたが、放射線治療の効果が出たのかも知れません。

乳がん治療の中で辛かったのは、抗がん剤の副作用です。薬によっては2週間ほどで頭髪が抜けてつるつるになってしまい、私自身ウイッグを着用しましたが、ウイッグが取れたときのうれしさは格別でした。ほかにも吐き気を伴ったり、体がふわーと浮いた感じでだるいとか、のぼせたり、足の感覚がなくなるとか、手が赤くなるとか、いろいろな副作用が現れることも知りました。

2007年6月、PET‐CT検査で鎖骨上リンパ節の癌の縮小が確認されました。その後の2008年3月のPET-CT検査では異常は出ていません。放射線治療と抗がん剤のどれが効いたのか分かりませんが、すべて良い方向に行ってくれたと喜んでいます。

ともかくPET-CT検査に切り替えたおかげで再発が分かったのです。また保険が効くので助かります。それまでのCTとMRIの検査は同時2つ受ける必要があり、心身ともに負担が大きかったので、全身を一度に検査できるのが非常に楽なのです。まず放射性物質を注射して全身に回るまで1時間くらい待ってから始まり、じっと横になっているだけです。注射するときちょっと痛むくらいで、大した苦痛はありません。

再発が見つかった段階で、もう治らないことがはっきりしたので、生涯うまく折り合いをつけ、付き合っていくしかないと観念しました。最初の手術の日に似たような手術をした一つ違いの友だちと情報のやり取りをしていて、気持ちはとても安定しています。

抗がん剤をいつまで続けるか。先生は「やめ時が難しい」と言われます。安全性を考えると続けていた方がいいのかな、とも思っています。今はPET‐CT検査のみですが、体調が悪いときは頭のCTなどを撮ってもらうつもりです。検査のあと「大丈夫だよ」って言っていただくと、精神的にとても落ち着きます。どこかに異常が見つかれば、それに沿った検査を進めてもらえばいいのです。

薬の副作用は少しありますが、職場のサポートもあり、仕事が何とか続けられ、治療代の面からも大いに助かっています。今は週1回の点滴をこなすことで精一杯です。でも、経過が悪くないので、今は死に対する恐怖感も消え、年1回か2回の旅行を楽しんでいます。

【担当医からのひとこと】

再発乳がんも積極治療が有効

ここ7年にわたりM.N.さんの乳がんの診断、治療そして術後のケアに当たってきました。乳がん再発の早期発見が再発後の生活(QOL)の改善に役立たないとする医師が多いのですが、私は術後の検査を積極的に行うことは無駄ではないと考えています。

 この方の場合は、術後に施行したPETで偶然発見されたリンパ節への再発でした。転移している個数の少ない「オリゴメタ」の状態と診断し、抗がん剤の治療と放射線治療を行いました。今のところPETなどの検査では再発したリンパ節は認められず、また新たな再発も発見されていません。これからも検査を続けていく必要がありますが、病気が進んで多発の転移がある状態で発見される場合に比べ、症状もなくお元気に仕事を続けておられるのを拝見してうれしく思っています。

リンパ節転移や骨転移のみの再発を早期発見し、5年以上病気を抑えている方は、たくさんおられます。再発でも治癒する再発があるのかどうか、そうであれば術後に積極的な検査をすべきかどうか、再度調査しなおす時期に差しかかっているようです。抗がん剤や新しい治療薬(抗体)の進歩により、オリゴメタの場合は放射線治療、手術などを組み合わせて積極的に治療すれば乳がんでも治癒する場合もあるのではと言われ始めています。

PETは転移の早期発見や治療効果の判定にも有用ですが、保険適応のこともあるので有用な検査方法を検討すべきだと思います。

福間英祐先生
亀田メディカルセンター
乳腺センター

■ PET-CT検査

PET(ペット=陽電子断層撮影装置)とCT(コンピューター断層撮影装置)を組み合わせた診断装置。微量の放射線を出す薬剤を静脈注射してから撮影を行い、薬剤の集積部位から放出される放射線を検出し生体の機能を観察する。例えばブドウ糖に似た薬剤(FDG)を使用する場合、ブドウ糖が正常細胞よりも分裂の盛んながん細胞などに集積する現象を利用してがんの診断を行う。CTの解剖学的な形態画像とPETの生理学的な機能画像の組み合わせにより、診断精度が高まった。脳疾患や心疾患の検査にも使われる。

写真:PET-CT検査
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