一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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米国医療機器・IVD工業会

第1集

関節の病気-人工膝関節で痛みから解放

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最初に右脚の膝に違和感を抱いたのは、58歳のころだったと思います。階段を降りるとき右足の膝の内側がちくちく痛むのです。「老化は足腰から来る」と聞いていましたので、自分は脚から衰えが始まったのかと少々寂しくなりました。でも、平坦なところを歩くときは何ともありません。元気を出して歩いておれば脚に力がついてきて快復するに違いないだろうと、好きな社交ダンスにも励みました。

佐藤信夫さん
(81歳・男性・東京都)

親身な先生と先進医療に遇う

しかし相変わらず、下り階段に差しかかるたびに脚の不調を感じてしまい、ついに病院のお世話になろうと決心しました。それからあちこちの病院を訪ねましたが、どこでも「年のせいだから仕方がありませんね」と素っ気なくかわされて、満足な治療もしてくれません。仕方がないので膝専門の病院を探し出して診てもらったところ、「あなたの膝は軟骨がすり減ったのだから、すり減った軟骨をきれいに取り除けば、新しい軟骨が出来てきて治りますよ」と、ちょっと希望がわいてくるような見立てです。

私は大いに期待して軟骨の除去手術を受けました。しかし症状は少しも改善しません。それから3年たったころから、平坦なところを歩くことさえ難しくなってしまったのです。ダンスばかりか仕事さえできなくなり、「このまま老いぼれてしまうのか」と悲観的な思いばかりが頭に浮かぶようになりました。おまけに前立腺がんにかかってしまって、まさに“泣き面に蜂”状態に立ち至りました。

こうして前立腺がんの治療のため通院して泌尿器科の先生のお世話になっていたのですが、きっかけというものは本当に不思議な縁で訪れるものです。ある日、この泌尿器科の先生に脚の痛みで困っていること漏らしたのがきっかけで、「それなら整形外科の先生を紹介してあげましょう」ということになったのです。こうして野村先生に引き合わせていただくことになりました。

野村先生は丁寧に診察してくださいました。X線写真など画像診断の結果、「変形性膝関節症」であることが判明し、「痛みから解放されるには、傷んだ膝関節を人工関節に替えるしか方法はないでしょう」と言われました。私はもういちど以前のように元気に歩き回りたかったので、手術についてあれこれ聞きただしたところ、先生は人工膝関節の構造のこと、置換手術の手順のこと、手術後のリハビリのことなどを詳しく分かりやすく説明してくれました。

これまで診てもらった何人もの先生とは違って、親身になってくれていることが私の胸を打ちました。説明を受けているうちに置換手術が私にも理解ができ自信がわいてきたのです。手術することを決意し、早速手術の申し込み手続きをはじめました。手術についての不安などまったくなく、むしろ「この手術で良くなるに違いない」と期待に胸がふくらむ思いでした。

大好きな社交ダンスに復帰

手術は先生が説明してくれた通り、順調に進行しました。手術のあとリハビリ訓練を受けている最中、回ってこられた先生にお礼を申し上げたら、先生はうなづかれ笑顔で「よかったね」と言ってくれました。手術後は1日、1日と回復していくのがわかり、回復後の希望がわいてくるようになりました。

私は健康になった現在、手術を受けたのは大正解だったと思います。高度な技術による素晴らしい治療法が開発されたものだと、いまも改めてかみしめています。毎日元気に生活ができるようになっただけでなく、あきらめていた社交ダンスが十年ぶりにできるようになって、生き生きと過ごしています。ダンス会のあと先生にお会いしたとき、「先生、おかげで青春を取り戻せたような気分で頑張っています。ありがとうございました」と伝えました。

年だからといって、しおれてしまう必要など全くないのです。一時は「年には逆らえないのか」と悲観的になっていましたが、それから数年後、思わぬチャンスにめぐり合うことになったわけです。これからも希望だけはしっかりもって生きていきたいと思います。

私の治療体験とダンス復帰の経緯は先ごろ、『ダンスビュウ』という月刊雑誌に取り上げられました。この記事を呼んだ女性が同じような手術を受けることになり、私と同様に元気を取り戻されたそうです。これもご縁の広がりと、とても喜んでいます。これからも自分の経験を多くの人に伝えていきたいと考えでいます。

今後も高度な医療技術がさらに進歩するように期待しています。

【担当医からのひとこと】

生き生きと過ごせて何より

長年膝を使っていると、膝の軟骨がすり減って痛みが激しくなり、O脚など脚の変形が目立ってくる場合があります。長い距離を歩くことが難しくなり、特に階段の昇り降りで差し込むような痛みに悩まされる方が多いようです。サプリメントのコンドロイチンを試したり、消炎鎮痛剤の内服やヒアルロン酸の関節注射をしても痛みが頑固に続き、重度に軟骨がすり減っている症例では、人工膝関節置換術が非常に有効です。

近年、人工関節置換の手技はめざましく進歩しています。特に切開部分の傷を小さくし、なるべく筋肉や靭帯を傷つけないようにと低侵襲な手術が工夫されているのです。そのため早期離床が可能となり、大半の方が術後1週間以内に歩行練習を開始し、術後1カ月で階段の昇り降りもできるようになって自信をつけて退院していきます。手術の結果、O脚も真っすぐに伸び、しっかり脚に力が伝わるようになります。

退院した患者さんから「自分で買い物に行けるようになった」「家族で旅行に行ってきた」といった話を聞くと、本当にうれしくなります。佐藤さんの場合、「大好きな社交ダンスに10年ぶりに復帰できた」と、とても喜んでいました。人は脚から老いるといわれますが、痛みから解放されると思うように動けるようになり、生きる自信がつくのです。

50歳以上の日本人では約3,000万人が変形性膝関節症で悩み、そのうち1,000万人に重い症状が出ており、人工膝関節置換術を受ける患者さんは年間約5,5000人と見られています。

あなたは、膝の痛みをあきらめていませんか?

野村将彦先生
赤羽中央総合病院理事
整形外科部長

■ 人工膝関節置換術

膝関節の傷ついた部分を取り除き、金属やセラミックで出来た人工膝関節に置き換える手術。痛みを取り去る効果が大きい。太もも側の部品とすね側の部品の間に、軟骨の代わりになるプラスチック(超高分子ポリエチレン)製部品をはさみ込む。必要に応じて同時に膝蓋骨(ひざの皿)も取り替える。耐久性は15~20年ほどで、プラスチック部品だけ取り替えればよい場合もある。事故など緊急時以外は手術の時期をじっくり選べばよい。

写真:人工膝関節
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