一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第2集

骨の病気-母趾の中にプレートを挿入

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初めて足の親指に痛みを覚えたのは、40歳を過ぎたころだったと思います。最初はまったく不自由を感じませんでしたが、徐々に変形していき、やがて病院で使うような楽なスリッパでも、履きにくいと思うようになりました。大人になった息子が私の外反母趾がいはんぼしに目を留めて、しばしば手術を勧めるのです。

実は10年ほど前、大手の病院の整形外科に入院して外反母趾の手術を受けたことがあるのですが、すぐに痛みが再発して不自由な暮らしに戻ってしまいました。それ以来、手術についてはすっかりあきらめていたのです。

江角 富美江 さん
(女性・愛知県)

左右の母趾とも激しく屈曲

でも、こんなに家族に勧められるのなら今のうちにと思い直して、新聞記事やネットを調べてみたら、意外にも近くに専門の先生がいらっしゃることが分かりました。自宅から行きやすい豊橋の塩之谷整形外科です。外反母趾の手術が得意な先生ならば、きっと格好よく治してくれるはずです。そこで副院長の塩之谷香しおのや かおり先生に連絡を入れて、診ていただくことにしました。

私の右足は母趾が激しく「く」の字型に曲がり、手なら人さし指に当たる第2趾の上に乗っかっていました。その曲がった母趾を真っ直ぐに伸ばして、元の位置に戻してほしいのですが、果たして専門家の香先生はどんな手術をしてくれるのでしょうか。患者の私にとっても興味津々でした。

香先生は、とても決断の早い方です。
「まず右足から始めましょう。以前の手術で骨をすでに削ってあるため、これ以上骨を削るわけにいかないので、母趾を針金で固定して曲がりを真っ直ぐに伸ばします。それがすっかり治ってから、左足の治療に入ることにしましょう」

足の手術を左右同時に行うと、松葉杖を使って歩くのも難しくなるので、片方ずつ行うのだそうです。右足の外反母趾の手術が終わってからは何回か定期検診に通っていましたが、腫れが出てしまったので一時的に手術部位に挿入されていた約1ミリ幅の針金を抜くことになりました。先端をペンチでつかんで引っ張ると、麻酔なしでも痛くなく、すっと抜けてしまい驚きましたが、母趾が真っ直ぐ伸びるまでにしばらく調整が必要でした。そしてやっと半年後、左足の治療に入ることになったのです。

ところが、ここで朗報です。
「先日私が研修してきたばかりの新しい手術法を試してみますか。母趾の中にプレートを入れる方法ですが、後の治りが早いと思いますよ」
「じゃあ、私が第1号なのですね。もちろん、お願いします」
こんなタイミングのよさはまさに夢のようなお話しで、迷うことなくお返事をしました。

まず外反母趾の部分を含む足先のX線写真を撮り、麻酔薬は左膝の裏とかかと付近の2カ所に注射しました。それだけで、もう触られても切られても、何も感じなくなりました。前回の手術では、抗生物質の点滴や内服で感染症に備えましたが、今回はそれもなく、何もかもすいすいと進行しました。

手術は1時間半くらいかかりましたが、入院はわずか1泊ですみ、翌日帰れることになりました。手術後の痛みもほとんどなく、むくみも出ませんでした。

2週間後にギプスも取れて

手術後から足をすっぽり覆っていたギプスも、2週間後には外されました。まだ足は包帯にくるまれたままでしたが、さっそく撮影したX線写真を見て私は思わず叫んでしまったのです。
「わあーっ、出っ張りが消えて、真っ直ぐに伸びてる! 先生、どうもありがとうございました」

「きれいになって良かったですね」と、先生も一緒に喜んでくださいました。手術跡がしっかり固定するまでは足首を曲げるわけにはいきませんでしたが、そんな我慢なら平気です。

先生は以前から予約制の「靴外来」を開設し、靴選びの相談にも乗っておられます。私も包帯から完全に解放されると、足やひざの診断後に看護師さんに足型のプリントを取ってもらいました。それを持って指定された靴屋さんに行き、靴選びやインソール(中敷き)加工をお願いしたのです。私の場合、「かかとの高さは2.5センチまで」と制限されていますが、要するに、横幅がフィットして足先が楽な靴を選び、インソールを入れて履いていれば良いのです。

手術前は、あちこちの靴店を訪ね回って良さそうな靴を探したり、痛みを取るためのグッズをあれこれ買い求めていましたが、もうそんな気遣いはまったく不要になりました。信頼できる先生にお会いし、何もかもお任せできた幸運を今さらのように喜んでいます。

【担当医からのひとこと】

強く固定され術後の痛みも軽い

江角さんを初めて診察したのは、2012年11月でした。Ⅹ線画像を見ると、別の病院で手術を受けたという右の母趾は40度、また左の母趾は48度も屈曲した重症の外反母趾でした。特に右足は母趾と第2趾が上下に重なっていたのです。

私は、手術を希望する外反母趾の患者さんには、まず正しい靴選びと専門家によるインソールの作製をお勧めします。大半の外反母趾は痛みなどの症状がなくなるからです。「手術すれば、どんな靴でも履けて、すたすた歩ける」と思うのは間違いです。

江角さんは手術の経験もあり、形の良い足に戻したいと望まれたので、まず以前に手術を受けた右足を手術しました。骨の固定にはKワイヤーという針金を使いましたが、先端が皮膚の外に出ており、術後に足部が腫れたため抗生物質の点滴や内服が必要でした。

そんな不安な状態だったのに、左足の手術も希望されたのです。そのころ私は、骨折した手関節のプレート固定手術を始めたところでした。固定部分が強固なため、術後の痛みが少い事がわかり、研修中を受けて新しい米国のプレートを使う手術方法を選びました。

これなら足の骨を切ってもしっかり固定でき、感染リスクも減ります。手術時間は腱の移行なども含めて正味1時間半ほどでした。術後は形が良くなるだけでなく痛みもなくなり、「手術して良かった」と言っていただけたときは私もうれしくなりました。

プレート挿入には使いやすい手術道具が工夫されています。プレートの形もよく骨にフィットし、固定力が優れているため術後の痛みも少なく、切った部分の骨の付きも良いのです。それにギプス期間も短く、苦痛が少ないのが特徴です。

塩之谷 香 先生
塩之谷整形外科
副院長

■ 外反母趾矯正術

外反母趾とは、足の親指が「く」の字に曲がり、激しい痛みを伴う疾患。女性に多く、原因として遺伝、ハイヒールなどが考えられる。治療法には靴の選択、ストレッチによる運動療法、足に合ったインソールの装着などの保存療法がある。

保存療法で痛みや変形が治らない場合、足の形を整え症状を改善させるために足の骨と筋肉を手術により調整する。手術は骨を切って角度を矯正し、金属製のネジや板(プレート)で止める方法がある。

写真:足部専用ロッキングプレート
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