一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第2集

【特別コラム】自分らしい医療が選べる時代に~乳がんにおける最新の診断、治療、術後とは?

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もしかして乳がん?マンモグラフィで超早期がんを発見

「まさか私が? そんなはずはない」

真っ先に頭に浮かんだ言葉でした。それまで私は仕事で100人以上の乳がんの女性たちを取材してきました。でも「うちはがん家系でもないし、乳がんになることはないだろうなあ」。なんの根拠もないのですが、漠然と私は、そう思っていました。

乳がんが発見されたきっかけは、乳がん検診です。1年4か月前の検診では異常なし。

「まだ、もう少し先でも大丈夫だけど…」と思いながら、検診に出かけました。

しこりが触れる、乳首から分泌物が出る、胸が張るなどの自覚症状は、まったくありません。もちろん体調不良もありません。ただの“定期検診”のつもりでした。

今、日本で乳がんにかかる女性は、毎年約5万9千人、これは14人に1人が乳がんにかかる確率です。そして、乳がんで死亡する女性は年間約1万2千人も。しかも乳がんは、40代50代という社会でも家庭でも中心的役割を果たす世代の女性がかかるという特徴があります【注1】。

近年、医療検査機器の急速な進歩で、乳がんの分野でも早期発見と確実な診断が可能になっています。益々、自覚症状がない段階で検診を受けることのメリットが増しています。しかし日本の乳がん検診受診率は、約24%に留まっています。これは主要先進国で最低の数字です。

エビデンスのある乳がん検診は40歳から2年に1回、マンモグラフィ(乳房X線)検診ですが、現在、乳房超音波(エコー)検診の有用性を調査研究中でもあります。

 

増田 美加
女性医療ジャーナリスト

女性のための健康&医療の執筆、講演を行う。女性誌『婦人画報』『Oggi』ほかで執筆中。 著書に『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)、『乳がんの早期発見と治療』『死ぬまで老けない人になる』(小学館)ほか多数。 乳がんサバイバーでもあり、NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク「マンマチアー ~乳房の健康を応援する会」理事。

画像検査でないと見えないしこりのない乳がんもある

石灰化のうち、乳がんによるものは約2割。石灰化の約8割は良性です。

しかし、長年、多くの乳がんの石灰化の画像を見てきた私は、診察室に映し出されたマンモグラフィ画像を見て、「あっ、これは乳がん(悪性)の石灰化だ」と思いました。

自分の乳房の画像に、悪性らしき石灰化が映っているのを見たときは、頭からサーッと血の気が引いていくのを感じました。

「先生、これは? 石灰化ですよね?」

「うーん、そうですね。念のため、検査してみましょう」

「そうですね。でももしこれが悪性だとしても、早期発見ですよね?」

と、早期であることを自分に言い聞かせるために、何度も同じことを聞いたのを覚えています。医師は、言いにくそうに、でもきっぱりと精密検査(組織診であるマンモトーム生検)をすすめました。このとき、私の心臓はバクバクと大きく鼓動していました。

私の乳がんはしこりもなく、まったくの無症状。触っただけでは、しこりのない(石灰化)乳がんはわかりません。画像検査で検診をすることの重要性をわかっていただけると思います。

マンモグラフィで見つかった石灰化

体に負担の少ない検査や確実な診断が可能に

しこりのある乳がんの場合、マンモグラフィや超音波でがんが疑われたら、次は細胞を注射針で吸引してがんの有無を調べる細胞診を行い、最終的にはもう少し大きい組織を採取(組織診)して最終診断を行います。

しかし石灰化は肉眼では見えないため、以前は、石灰化のあるあたりの組織を外科手術で切り取って診断していました。胸に大きな傷が残ります。まして、結果が良性だったら…。検査だけのために、大きな傷が残るのは、私たち患者にとって負担があまりにも大きい。

そこで開発されたのがマンモトーム生検(マンモグラフィで見ながら太い針で吸引する)やバコラ生検(超音波で見ながら太い針で吸引)などの組織診の方法です。いずれも蚊に刺された程度の傷で、数か月後にはなくなります。

このほかにもMRIやPET-CTなどの検査機器が進歩し、患者の体への負担を最小限にする低侵襲の検査で、的確な診断ができるようになっています。乳房のMRIは、乳がんリスクの高い人への精度の高い検査として注目されています。また、PET-CT検査はがん転移の早期発見や治療効果の判定に有用です。

さらに最近では、遺伝子(DNA)検査がすすみ、BRCA1/2遺伝子の有無を血液検査で調べることで、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」を発症前に発見することも可能になりました。「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」は、生涯の発がんリスクが一般の女性に比べ10~19倍に高まり、しかも一般的な乳がん発症年齢よりも若く発症する率が高くなる遺伝性のがんです。

米国の女優アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査と遺伝子カウンセリングを行い、この病気のため予防的に乳房切除をした話題は大きなニュースになりました。

ところで私のがんの診断は、3ミリの範囲内に5粒の石灰化があっただけ。検診のお陰で、超早期に見つかったので、切除したのは3×3センチ程度。手術入院は3泊4日。それだけで治療終了でした。手術も乳輪に沿って切ったので、乳房に凹みもなく、乳輪の傷あとは数年でまったくわからなくなりました。

先進医療技術といわれる医療検査機器や診断機器は、私たち患者に大きなメリットをもたらしています。私たちのために開発されたのですから、その恩恵にあずからなくてはもったいない。ぜひ定期的な検診を受けてください。早期に発見されれば、より体に負担の少ない早期治療が可能なのです。

個別化の治療が進み選択肢が広がる

でも万が一、早期発見できなくても近年の乳がん治療は大きく進んでいるので、がんを必要以上に怖がらないでください。

現在、乳がん治療は、乳房の切除手術に加え、わきの下などのリンパ節切除、放射線治療、ホルモン療法、化学療法(抗がん剤、分子標的薬)などから、ひとりひとりのがんの進行具合や種類によって選択します。乳がんの治療分野でも個別化医療が進んでいます。

近年、乳がんの治療分野で大きな進歩をとげているのは、抗がん剤や分子標的薬。新しい薬が続々と登場し、治療の選択の幅が広がりました。

特に、近年の乳がん治療を大きく変えたのは分子標的薬です。分子標的薬とは、がん細胞に特有の性質を見つけ、そこを狙い撃ちする治療法。

従来の抗がん剤による治療は、がん細胞だけでなく、正常な細胞も見さかいなく攻撃してしまいます。たとえれば畑の雑草(がん細胞)を駆除するために、ヘリコプターでくまなく薬を散布し、正常な細胞にも打撃を与えるような治療です。正常な細胞の中で特に増殖が盛んな細胞(髪の毛や消化器の細胞など)は、影響を大きく受けますので、脱毛や吐き気といったさまざまなつらい副作用が起こります。がん治療のなかで、最もつらい治療ともいえます。

ところが、分子標的薬は、がん細胞だけをピンポイントで狙い撃ちするので、大きな副作用なしに、がんだけを叩く効果が期待できるのです。

乳がんの分子標的薬の代表は、トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)。ハーセプチン治療はHER2タンパク、あるいはHER2遺伝子を持っている乳がんにのみ効果が期待されます。

乳がんのうち20~30%は、乳がん細胞の表面にHER2タンパクと呼ばれるタンパク質をたくさん持っていて、これが乳がんの増殖に関係しているのです。

そして、このHER2タンパクの有無を診断できる検査薬は、コンパニオン診断薬と呼ばれ、これが開発されたことで乳がん治療が大きく変わったといっても過言ではありません。

また、最近では抗がん剤治療が必要かどうかを判定する遺伝子検査も注目されています。

組織診で取った組織(著者提供)

治療後のQOLアップが重視される時代に

当たり前ですが、私たちはがんになっても女性です。自分らしく治療前と同じように働いて、前向きな人生を送りたい。女性にとって乳房再建は大切な治療のひとつです。その乳房再建手術は、今まさに大きく変わろうとしています。

これまでインプラント(人工乳房)による乳房再建手術を受ける人は、保険が効かない自由診療となるため、片側で60万円から100万円程度の費用を全額自己負担しなくてはなりませんでした。

しかし、2013年6月、厚生労働省は乳房再建手術に使用するラウンド型ブレスト・インプラントの保険適用を承認し、7月からその適用が開始。ついで11月にはより日本女性の自然な乳房の形状に近いアナトミカル型ブレスト・インプラントの保険適用も承認され、2014年1月からその適用が始まりました。

私たち乳がん患者は、「乳房の再建手術で失った乳房をとり戻すまでが乳がん治療の一環」であることを国に訴えてきました。ようやく、「乳房再建のインプラント使用は美容整形目的とは異なる」と厚労省に判断されたことで保険適用への道が開かれ、患者の経済的負担が大きく軽減されることになります。これは、保険適用を求めて署名活動を続けてきた患者の力の結集ともいえるのです。

今後も、さまざまな医療技術や医療機器が開発されることで、私たち患者が病気になっても自分らしく生きるために、自分らしい最適な治療を選択できるようになることを心から期待しています。

【注1】「独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス」2009年、2011年データより

 

乳房再建に使用されるブレスト・インプラント
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