一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第2集

女性の病気-切らずに子宮筋腫の治療ができる

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職場の健康診断では、毎年のように貧血の疑いで引っかかっていました。でもただの貧血と軽く見ていたので、「そのうち病院に行こう」ぐらいにしか思っていませんでした。

ところがやがて貧血がひどくなり、体調や気分が悪くなってきたのです。慌てて内科医院を受診し、鉄分を含んだ貧血の薬を処方してもらいました。しかし、血液検査の数値はいっこうに良くなりませんでした。

大重 美千代 さん
(48歳・女性・兵庫県)

貧血の原因は子宮筋腫だった

やがて左脚だけが異常にむくみ始めました。再び内科を訪ねたら、
「これは単なる貧血ではないのかも知れません。早いうちに婦人科で診てもらったほうが良いと思います」
と、婦人科医院を紹介してくれました。左右一緒ではなく片方の脚だけがむくむ場合は、婦人科系の病気が潜んでいることが多いのだそうです。

婦人科で内診と超音波検査を受けたあと、
「子宮筋腫ができていますね。ちゃんとした治療が必要です」
と診断をくだされ、これにはとても驚きました。確かに年齢の割には月経の量が多すぎるなとは思っていましたが、昔からのことですから、自分の体質なのだろうと特に気にしていなかったのです。

子宮筋腫と診断されてから、かつて友人たちがそんな話をしていたことを思い出し、こういうことだったのかと納得しました。その婦人科では、子宮の全摘手術か、あるいはホルモン療法を受けるように勧められました。仕事の都合上、入院が難しいので、注射ですむホルモン療法にしようかなと思いましたが、副作用として更年期障害の症状が重くなったり、骨粗しょう症のリスクも高くなると聞いていましたから、すごく不安でした。

そこでインターネットで検索してみたところ、「日帰りで治療可能」という集束超音波治療(FUS治療)に目が留まりました。日帰りで治療ができるだけでなく、治療のために体を切らなくても良いというのです。ぜひこの治療を受けたいと思い、婦人科の先生に相談し、早速紹介状を書いていただきました。

こうして神戸市須磨区の新須磨病院を訪ねることになりました。ここでも内診と超音波検査、さらにMRI(磁気共鳴画像)検査などが行われ、福西秀信先生から 「FUS治療を受けていただける条件は満たしているようです」と判定されました。

望んでいた治療が受けられると分かり、とても嬉しかったです。福西先生はこれまで多くの患者さんにFUS治療を行った経験があると聞き、また先生から「大丈夫ですよ」と声をかけていただいたので、安心してお任せしようと思いました。

超音波による熱で筋腫を焼く

それからFUS治療の受け方について詳しく説明していただきました。切らない治療とはどんな治療なのか想像もつきませんでしたが、要するに、医療機器の上に下腹部をくっつけたまま2~3時間、腹ばいの姿勢を続けていれば良いのです。

ただ、「お腹の中に熱さを感じますが、我慢できなくなったとき手元のボタンを押していただけば、治療を中止します」という説明には、どのくらいの熱さなのか、自分に耐えられるのか不安になりましたが、多くの患者さんが通ってきた道ですから、私も頑張ろうと心に決めました。

治療中はいろんなことを考えましたが、やはり「熱いことは熱いものだなあ」というのが率直な感想です。何はともあれ、手術が無事に終わってほっとしました。手術の翌日は大事をとって仕事はお休みをいただいていましたが、実際は仕事に行けるくらい体調も回復し、気分も良かったです。

治療後は、半年ごとにMRI検査を受けて子宮筋腫の大きさをチェックしてもらっていますが、小さくなっているのがよく分かり感激しています。もちろん貧血の症状も改善されました。

治療前は、いつも背中に誰かをおんぶしているのじゃないか、と思うくらい体の重さを感じて、歩くのも大変でした。疲れやすく、頭もぼーっとした状態が続いていましたが、今は毎朝シャキッと、すっきりした気分で起きることができています。

いま一番楽しんでいるのは、ゴスペルサークルのレッスンです。以前から興味があったので、貧血が治ったら参加しようと治療前に入会手続きをすませていたのです。レッスンに通っているうちに新しい友人もどんどん増えて、年に数回催されるライブにも積極的に参加しています。

こんなに有効なFUS治療も、残念なことにまだ健康保険が適用されていません。誰でもが気軽に利用できるようになれば、子宮筋腫を小さいうちに治すことができて、貧血に悩む人も減るはずです。入院の必要がなく日帰りができ、体に負担のかからない治療法こそ、1日も早く普及してほしいと心から願っています。

【担当医からのひとこと】

MRI検査で治療効果も予測

かつて子宮筋腫の治療は、子宮摘出が当たり前とされていました。その後、腹腔鏡技術の進歩もあって、小さな傷から筋腫を取り出すことも可能になりましたが、数日間の入院と退院後の静養が欠かせません。

またホルモン療法で閉経状態を作り出して筋腫の発育を抑えてみても、大重さんが理解されているように、ホットフラッシュ(ほてり)や骨粗しょう症などの副作用が心配されます。そのためホルモン療法は6カ月間が限度となっています。

今回、大重さんが受けられた集束超音波治療は、MRI室のテーブルに腹ばいになり、お腹の外から超音波を当てて、筋腫だけを焼いて壊死【ルビ=えし】させる方法です。いくらか痛さや熱さを感じることもありますが、我慢できないときは緊急停止ボタンを押せば治療を中断することもできます。体にメスを入れず麻酔もしないので、治療終了後はしばらくお休みいただけば、その日に歩いてお帰りになれます。

この治療はMRI検査により、筋腫の大きさ、発生部位、その性状などを考慮して行います。筋腫が小さいからといって治療しやすいとは限りません。長径が3~10センチ程度の筋腫が適応になります。時にはほとんど焼けず、効果の乏しいこともありますが、大重さんの場合はこの治療に向いた筋腫で、その効果もはっきりと表れていて、この治療法の目指す理想的な結果が得られました。

まだ治療例数も多くなく、今後も慎重に治療を進める必要がありますが、やがて女性にとって最も優しい筋腫の治療法になるのではないかと期待しています。

福西 秀信 先生
新須磨病院 婦人科 部長

■ MRガイド下集束超音波治療

症候性子宮筋腫の患者を対象に、筋腫に伴う症状を改善する治療法。腹部体外から子宮筋腫組織に超音波を照射し、筋腫組織に超音波を集めて局所的に加熱し壊死させる。MRI装置によって、治療を行う位置や温度変化をモニタリングしながら進めるので、安全面でも優れている。皮膚を傷つけず、麻酔や輸血も不要で、合併症のリスクが少ない。日帰りあるいは1泊程度の入院で行え、低侵襲でQOL改善につながる治療法である。

写真:FUS治療時
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