一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第3集

神経の病気-【本態性振戦】新聞記事をきっかけに 自ら臨床研究に参加

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手のふるえを自覚したのはまだ10代、私が高校生のときでした。習字の授業で小筆を使って文字を書こうとすると手がふるえて、なんだか書きづらいなと感じたのが最初でした。そろばんの玉もはじきにくく感じました。変だなとは思いましたが、まさかそれが病気であるとは考えもしませんでした。

文字を書くときや包丁を持つときなど、多少の不便はありましたが、ふるえは手指だけで、生活に支障があるほどではなく、周囲の人にも気づかれない程度でしたので、その後30年近く、そのままで暮らしてきました。しかし、年を重ねるにつれ、徐々にふるえの症状が強くなってきました。

40代になって初めて病気だと知る

これが病気だと知ったのは、1992年、40代になってからです。けがで整形外科を受診したときに、思い切って自分の症状を相談してみたところ、神経内科を紹介されました。これは病気だったのだと、そのとき初めて認識しました。

紹介された神経内科で診察を受け、ふるえを抑える薬が処方されました。ただ、そのとき直接病名は告げられず、「本態性振戦」という病名を知ったのは、その数年後、保険請求の書類をお願いしたときでした。振戦というのがふるえのことで、本態性とは原因不明という意味だそうです。

薬でふるえはある程度抑えられました。しかし、時間の経過とともにだんだんと症状が戻ってきて、もう1種類薬が追加されました。また少しよくなったのですが、それも徐々に効果が薄れてきて、ティーカップの持ち手を持ったり、ネックレスを首の後ろで留めたりするなど、細かい作業がしにくくなりました。徐々に、徐々に悪くなっていくのです。通院していた病院では、飲み薬以外の治療法を提案されることはなく、ほかにどんな治療があるのか、私はまったく知りませんでした。一生このままで過ごさなければならないのかと思っていたころ、新聞で本態性振戦の最新治療法の記事を読んだのです。それがMRガイド下集束超音波治療(FUS)でした。

これは、ふるえの原因になっている脳の神経を、頭蓋骨を切り開いたり穴を開けたりせずに、超音波で加熱して壊 えし 死させることで、症状を軽減するというものです。当時は臨床研究の段階でしたが、「こういう治療があるのか!」と、いても立ってもいられなくなり、臨床研究を行っていた神奈川と四国の病院に問い合わせました。残念ながら、そこは臨床研究対象患者の募集が締め切られていたのですが、諦めきれず、インターネットで調べ続けていたところ、大阪大学医学部附属病院でもこの臨床研究が開始されることを知ったのです。阪大病院ならわが家からも便利ですし、かえってラッキーと、自ら阪大病院に電話をし、2016年3月、脳神経外科を受診することができました。

山本 敬子 さん
〔71 歳・女性・兵庫県〕

最新治療でふるえが止まった

5月、MRIや血液検査など精密検査を受けるため、3泊4日の検査入院をしました。検査結果を受けて、臨床研究への参加が可能であることが分かり、阪大病院の先生方から改めてFUSの説明を受けました。私は新聞記事で治療内容はだいたい把握していたのですが、髪の毛をすべて剃らなければならないことは知りませんでした。

髪の毛が残っていると、髪の毛に気泡が付いて超音波を通さなくなってしまうそうなのです。また、神経活動を調整する電極を脳内に埋め込む脳深部刺激療法(DBS)やガンマナイフなど、別の治療法があることや、原因不明のため根治治療ではなく、また進行性の病気なので、症状が戻る可能性があることも伺い、多少の躊躇はありましたが、いまさらほかの選択肢は考えられなかったし、覚悟はできていたので、決心は揺るぎませんでした。とにかく早く治療を受けたかったのです。

7月、いよいよFUSのため入院しました。今回は2泊3日です。髪は手術前日に病院内にある理髪店で剃り、手術日の朝にも、もう一度剃りました。治療は、ヘルメットを頭部にしっかりと固定することから始まりました。ヘルメットから超音波を照射して脳の神経を壊死させる治療なので、ヘルメットがほんのわずかでもずれたり浮いたりして、間違って正常な神経を照射しないようにするためです。

ヘルメットの固定時の痛みを緩和するため、頭に麻酔をしましたが、意識ははっきりしたままMRIに入ります。途中何度かMRIに出たり入ったりを繰り返し、先生と会話をしながら進められました。終了まで2~3時間くらいだったと思います。手術のあともすぐ歩いたりでき、手術を受けたという感じではありませんでした。

治療を受けた日の夕方、文字を書くテストをしました。すると、手がふるえることなく普通に文字が書けたのです。ふるえとともに約 50 年生きてきて、初めてのふるえのない生活でした。とてもうれしかったことを覚えています。初めて自分で顔の産毛剃りもできました。料理もはかどります。今までは包丁を持つときも、手首をまな板に付けてふるえを抑え、少しずつ押し切るようにしか物を切ることができず、とても時間がかかっていたのです。夢のような日々がしばらく続きました。予期していたように徐々にふるえが戻り始めましたが、治療前ほどひどくはありません。

さらに2019年6月、FUSが保険適用となったのです。主治医の押野悟先生がそのことを教えてくださいました。「また髪を剃らないといけないですが、治療を受けたいですか」と聞かれ、「お願いします」と即答しました。徐々に進行していくなかで、平常に戻れたことは大きな喜びだったのです。押野先生とご相談し、可能なら左手の治療も希望したいと思っています。
実は私は、常に舌が痛む舌痛症ぜっつうしょうという原因不明の病気も抱えています。手のふるえと舌の痛み、気がめいることもありますが、気分転換のために仲間と一緒に山歩きやヨガをしています。原因不明でも諦めないで、自分から積極的に新たな治療法を探してみることはとても大事だと思っています。

【担当医からのひとこと】

ふるえに対するFUS治療

ふるえはさまざまな病気に合併しますが、特に原因がない場合を本態性振戦といいます。症状が強いと書字や食事などの日常生活動作にまで支障を来しますが、お薬の効果は乏し いため、治療法はないと諦めている方も多いようです。定位脳手術という方法で脳の視床の神経活動を熱凝固して抑えると振戦を軽減できますが、手術というハードルが高いためか、希望される方はまれでした。しかし、集束超音波治療(FUS)が登場したことで状況が一変しました。FUSはメスを使わず、超音波のエネルギーで視床を熱凝固し振戦を止める治療です。超音波が当たっている部位とその温度がMRIに表示され、患者さんの状態と照らし合わせながら安全に治療ができます。山本さんはこのFUSの臨床研究に参加され、治療後は右手の振戦がピタリと止まりました。3年後の診察では、少し振戦がみられたものの、文字も書け、腕を浮かしたまま小さな渦巻きを描ける状態が維持されていました。 FUSの注意点として次のものがあります。①毛髪は全部剃らないといけません。②左右同時に治療はできません。まず利き手を治療する方が多いです。③振戦が止まった時点で治療は終了しますが、本態性振戦は徐々に進行する病気ですので、時間がたつと症状が戻ってくることがあります。④超音波が頭蓋骨を通過しにくい方が一定数おられ、FUSではなく定位脳手術を選ぶ場合もあります。各患者さんで病状が違いますので、よく相談して治療法を考えます。長年の振戦が止まったときの患者さんの笑顔を見ると、われわれもとてもうれしくなります。FUSは今年(2019年)から本態性振戦に対して保険適用となり、治療の幅が広がりました。振戦でお困りの方は一度ご相談にいらしてください。

押野 悟先生
大阪大学医学部附属病院
脳神経外科 准教授

■MRガイド下集束超音波 治療(FUS)

本態性振戦はふるえのみを症状とする原因不明の疾患で、日常生活に支障がある場合、外科手術が検討されてきた。FUSは、頭蓋外部から超音波を照射し、脳深部の1点に集束させて標的部位を加熱凝固することで、穿せんとうや機器のインプラントの必要がなく、低侵襲に本態性振戦による手のふるえを緩和する治療である。治療は覚醒下で行われ、MRIを併用することで、治療中リアルタイムに治療標的の位置や温度変化を確認することが可能である。

写真:集束超音波発生装置
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