一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第3集

腎臓・内分泌の病気-【慢性腎炎】透析を自分で行い普段通りの生活

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慢性腎炎と診断されたのは、今から34年前、42歳のときでした。長期の旅行から自宅に戻った翌日、ベッドから起き上がれないほどの疲労感を感じ、同時に膀胱炎のような症状が出ました。単なる旅の疲れにしては重過ぎるように思い、気になって東京慈恵会医科大学葛飾医療センターを受診しました。

最初はなかなか原因が特定されず、内科、泌尿器科、婦人科などを回り、検査をしても問題ないとされ、最後に腎臓・高血圧内科に行き着きました。そこで慢性腎炎だと分かったのです。

慢性腎炎は完治することが難しく、悪化しないように特に食事に気をつけなければなりません。私は診断以来、しっかり管理した食生活を続けました。そのせいか、腎機能の検査値が大きく悪化することもなく、当時の主治医には「宮野さんは透析をしないで済むかもしれないね」と言われていました。

しかし、きちんと薬を飲み、食事を管理していても、体調が悪くなることがあり、状況に応じて入院することもありました。

宮野 清子 さん
〔76歳・女性・東京都〕
腹膜透析開始を自分で決断

2013年、70歳のとき、風邪をこじらせ、腎機能の検査値が悪化してしまいました。頭痛や吐き気といった症状も出て、そろそろ透析開始を考えたほうがよいかと思いました。

私は、透析といってもあまり悲観的に考えていませんでした。私が若いころからお世話になっているかかりつけ医が、たまたま腎臓の専門医で、フランスへの留学経験があり、以前から「患者の生活自由度が高いので、海外では腹膜透析が普及していて、透析を開始する場合は、まず腹膜透析を考える人も多い」と海外の透析事情を聞いていたのです。また、慈恵医大葛飾医療センターの以前の主治医にも、「腹膜透析は誰にでも使えるというわけではないが、宮野さんはもし透析になったとしても、腹膜透析を使えると思いますよ」と言われていました。

私は小さいながら会社を経営していて、仕事がありますし、観劇や茶道、旅行など趣味も幅広く、忙しい日々を送っています。週に何度も通院の必要がなく、自分で行える腹膜透析なら、生活も大きく変わることはないと思いました。 そこで早速次の通院日に、当時の主治医に腹膜透析を始めたいと自ら申し出ました。

先生は突然の相談に少し驚いた様子でしたが、「それでは明日入院できますか?」と言われ、今度は私が驚きました。というのも、この入院がどういう意味なのかよく分からなかったからです。

腹膜透析を開始するには、腹腔ふくくう内に透析液を注入・排出するカテーテルが必要になります。そのため、お腹にカテーテルを埋め込む手術をしなければいけなかったのです。私は、腹膜透析という手段があることは知っていたのですが、カテーテルの挿入については知らなかったので、手術を受けなければならないことは、少々ショックで戸惑いもありました。

しかし、私は「人生すべていただきもの」という言葉を信条にしています。喜びも悲しみも痛みさえも天からのいただきものであり、すべてを受け入れて自分らしく生きることを大切にしていました。腹膜透析も、それに伴う手術もいただきものとして受け止めることにし、すぐに気持ちを切り替え、入院してカテーテル挿入術を受けました。カテーテルに接続する透析バッグの交換方法は病院で教えてもらい、退院後は自分で毎日4回交換する生活が始まりました。バッグ交換に要する時間は30分ほどで、自分の生活リズムに合わせて、6時、12時、17時、21時に交換しています。

外出先でも透析できる

美術館や劇場などは理解が進んでいて、出かけるときにあらかじめ連絡しておくと、バッグ交換のために医務室などの場所をお借りできます。腹膜透析に必要な透析バッグやチューブ、また透析バッグをかけるため自分で改良したカメラの三脚などをキャリーバッグに入れて持ち運び、幕間などに出先でバッグ交換を行います。残念ながらデパートやショッピングセンターなどは腹膜透析の目的で医務室をお借りできないことが多く、そういう場合には車で出かけて車内でバッグ交換を行います。

透析前に感じていた頭痛も解消され、通常通りの生活を続けられるので、ストレスや不便は感じません。私は長年茶道をやっていますが、地元の特別養護老人ホームで慰問茶会などのボランティア活動が認められ、区長から表彰されるなど、地域活動にも積極的に携わっています。

腎炎は徐々に進行する病気なので、食事療法は今も続けていますが、現在の主治医の丹野有道たんのゆうどう先生に、「いつもすごくがんばって管理されていますね」と褒められるほど、しっかり管理しています。 透析というと、負担が大きいと思われがちですが、この腹膜透析なら何時間も拘束されず、これまで通りの生活を続けられます。自分の生活リズムに合った透析療法を選ぶことができ、仕事をしながら、趣味にボランティアにと毎日充実しています。

【担当医からのひとこと】

腹膜透析の活用で社会復帰

腎臓の機能が低下して末期腎不全に至ると、生命に危険が及ぶため、「透析療法」や「腎移植」が必要になります。現状では、移植腎の提供数が限られているため、患者さんの多くは透析療法を選択することになります。 この透析療法には「血液透析」と「腹膜透析」の2つの方法があります。血液透析は、機械を用いて血液中の老廃物を取り除き、きれいになった血液を体に戻す方法です。週に2〜3回、専門の医療機関に通院して治療を受けることになります。一方、宮野さんが選択された腹膜透析は、自分の「腹膜」をフィルター代わりにして、血液を浄化します。その方法は、まずカテーテルという細いチューブからおなか(腹腔ふくくう内)に透析液を入れます。すると血液中の老廃物や余計な水分が、腹膜を介して透析液中に溶け出してきます。人工的におなかの中で尿を作るようなもので、3~8時間ほどたったら、老廃物がたまった透析液を体外に取り出し、新しいものと交換します。透析液を交換する時間は30分ほどで、これを1日に何回か繰り返すことで、体の毒素をゆっくり穏やかに除去することができます。

腹膜透析の場合、通院は月に1回程度で済み、透析液の交換時以外は自由に活動できます。時間や場所の制約もありません。これにより、宮野さんは、ご自分の仕事や趣味、ボランティアなど、これまで続けてこられたことを、諦めることなく、毎日の腹膜透析を含めて前向きに取り組んでいらっしゃいます。

近年、透析液の改良や、治療をサポートする機器の進化が著しく、合併症を起こさずにより長い期間、安全に腹膜透析ができるようになることが期待されています。

丹野 有道 先生
東京慈恵会医科大学 
葛飾医療センター 
腎臓・高血圧内科 診療部長

■腹膜透析療法と関連機器

週3回通院して行う血液透析に対し、在宅で実施可能な透析療法。自宅や職場、旅行先でもできることから、自由度が高く、患者の負担が少ない治療とされている。

透析液を交換するタイミングは、主治医と相談の上で生活スタイルに合わせることができる。

自動腹膜灌流かんりゅう用装置を用いて、夜間就寝中に自宅で自動的に透析液を交換する、APD(自動腹膜透析)という方法もある。

近年、機械操作が苦手な方や目が見えにくい方でも操作がしやすい機器や、遠隔診療が可能な機器も登場している。

写真上:腹膜透析用透析液バッグ
写真下:自動腹膜灌流用装置

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