骨・関節の病気、けが-【股関節唇損傷】目標はグランドスラム
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テニス一家で育ち、3歳から始めた大好きなテニス。プロになる夢をかなえるため、練習に打ち込む毎日でした。まずめざしたのは、多くの有名プロテニスプレーヤーを輩出してきたアメリカのテニスアカデミーへの留学です。この留学プログラムの応募資格は、中学1年の3月から予選が始まる全国レベルのジュニア大会でシングルス4位以内に入ること。
小学校の全国大会でもシングルス4位に入り、中学ではもっと上位をめざそうとさらにがんばっていた中学1年(2013年)の6月、左股関節に痛みが出始めました。最初は左足に体重がかかったときだけ痛かったのが、その後、だんだん歩行時も痛みが出てきました。近所の整骨院で体のケアを受けながら、痛み止めを飲んでテニスをしていましたが、試合の後半になると痛みがどんどん増して、その年の7月中旬の関東大会では、試合中に泣きながらプレーしているような状態でした。
もともと体が硬く、股関節が動きにくいと言われていました。けれど整骨院で、原因はほかにあるのではないかと整形外科の受診を勧められ、X線とMRI検査の結果、左右ともに
受診した整形外科では保存療法で様子を見ましょうと言われました。
この結果を整骨院の先生に伝えると、股関節の専門医に診てもらった方がいいと言われました。それでAR -Ex尾山台整形外科の内田宗志先生宛てに紹介状を書いていただき、受診することになりました。
強くなって戻るために手術を決意
AR -Ex尾山台整形外科では、左股関節唇損傷と診断されました。内田先生からは、左大腿骨が関節内で横ずれをして、軟骨(股関節唇)を傷つけ、痛みが出ているとのことで、保存療法よりも、破れた股関節唇を修復する手術を勧められたのです。
そして、手術を受けた場合、4カ月から半年ほどリハビリが必要と言われました。
内田先生はまた、この手術は体や足を大きく切るようなことはしない、数ミリの器具を関節の中に通すだけの、体に負担が少なく、回復も早い内視鏡下手術であることも説明してくださいました。そして「世界で活躍しているサッカーの日本代表選手など、有名なアスリートはけがで手術しても、みな、強くなって戻ってきている。だから亜佑美ちゃんもきっと大丈夫」とおっしゃいました。もし、リハビリに半年かかったとしても、予選にはぎりぎり間に合います。保存療法で痛みをごまかしながらプレーをするより、手術を受けて、リハビリして強くなって戻りたいと思いました。なので私は、手術を受けることに迷いはありませんでした。私の意思で、決断しました。
私は内田先生の言葉を信じていたのですが、母は、復帰できるか分からないのに、13歳になったばかりの私にその決断をさせてよかったのか、不安だったようです。けれど、最初の受診から手術まで3週間でたどり着けた私は本当にラッキーだと思いました。絶対大会に間に合わせると、中学1年の夏休みに手術を受けました。
夢だったプロテニスプレーヤーに
リハビリはいつもの整骨院で進めていきました。家から中学までの間に整骨院があったので、学校帰りに寄るかたちで週6日通いました。自宅でも筋トレを行い、リハビリがない日は、公園で歩行練習をしていました。整骨院の院長先生と内田先生が密に連絡を取ってくださり、リハビリは順調に進み、2カ月半でコートでの練習を再開。試合には、手術から3カ月半後に復帰しました。
しかし、股関節を上手に使えていなかったため、腰に負担をかけて、年末にドクターストップがかかりました。なんで私だけ……と自暴自棄になった時期もありました。でもやっぱりテニスが好きだから、もう一度トレーニングに向き合いましたが、炎症がなかなか引かず、コートに戻るまでに2カ月以上かかってしまいました。
全国大会の予選はその1週間後。手術する前より強い体を手に入れたのだから、絶対あきらめないと試合に臨みました。県大会、関東大会と勝ち上がった中学2年の夏の全日本ジュニア大会で、目標だった14歳以下でベスト4という結果を残すことができました。残念ながら最終的には、留学プログラムの選考には落ちてしまったのですが、手術を決断したからこそ、この結果を残せたし、今の私がいると思っています。
それ以来、プレーにはまったく支障がありません。練習の後は必ず股関節のアイシングをするなど、ケアは欠かさないようにし、オーバーワークにならないように気をつけています。
リハビリ期間に、体づくりに取り組もうと栄養サポートも受け始めました。リハビリやトレーニング、栄養の相乗効果で、体が一回り大きくなりました。AR -Ex尾山台整形外科に行くと、いつも内田先生が笑顔で迎えてくださいます。私の元気の源です。
13歳という年齢は、当時、内田先生が担当されたなかでも最年少だったそうです。成長期でしたが、先生の確かな腕のおかげで、成長が止まることもありませんでした。今はテニスができる喜びを毎日実感しています。
高校1年から一般(大人)の大会にチャレンジし始め、高校を卒業した今年(2019年)の春にプロ登録。夢だったプロテニスプレーヤーになることができました。ここから世界ランキングを上げて、グランドスラムでプレーできるような選手になりたいです。
アスリートには股関節唇損傷が比較的多く、同じような悩みや痛みを抱えて苦しみながらがんばっている、若いアスリートも多いと思います。そんな人たちにとって、私の経験がもっと強い体を手に入れるための参考になったら、とてもうれしいです。
【担当医からのひとこと】
関節鏡で、断裂した股関節唇を骨に固定
輿石さんは、前医に
この手術は、全身麻酔をかけ、内視鏡の一種である「関節鏡」を使用すれば、股関節に直径約7ミリの穴を3つほど開けるだけで行うことが可能です。傷も少なく、アスリートには早期リハビリ、早期スポーツ復帰に大変有用です。関節鏡で、まず関節内部を詳細に観察し、関節唇損傷が認められれば、関節唇が付いている
関節鏡視下手術
関節周囲を数カ所小さく切開し、そこから関節鏡(内視鏡)、手術器械を挿入、患部をモニターで観察して関節内を手術する。低侵襲かつ実用的な手術として日本が世界に広めた技術であり、膝関節、肩関節に加え、最近では、これまで鏡視下手術は難しいとされていた股関節にも用いられるようになっている。
切開部分が小さいことから筋肉へのダメージが少なく、スポーツなどへの早期復帰に有効な手術として認知が高まりつつあり、手術件数も年々増加している。